六夢執筆のペンの怨念

壊れたガラスペン

番外編 特別設備局:椎名技官の記録

 ワタシは運輸通信省 特別設備局に属する官僚だ。特別内部部局という制度が適応され、内部部局ながら、外局相当の権限を持つオカルトの司令塔をはたしている。運輸通信省 外局 航通安全庁 特別の機関 通信監視院と共同で情報統括端末暴走事件の調査にワタシが派遣されるのも当然のこと。

 六夢むむ執筆のペンという小説投稿空間が電子情報網上に存在する。運営元は六夢むむグループだ。元政府傘下の研究所を由来とする企業グループであり、現在の研究所由来十企業グループと呼ばれている。ムペンという略称で親しまれている小説投稿空間は誰でも閲覧でき、登録すれば、誰でも投稿できるのだ。今回は、その小説情報統括端末に異常記録が検出されたのだ。それどころか小説投稿空間は異常記録が検出され続け、使用者すら困らせ六夢執筆のペンには多数の苦情が寄せられ、その対応に追われている。


「椎名技官殿、どう思われますか」


 薄暗い端末室で通信監視院職員にそう問われる。


「これは因果関係を確認する必要がありますね」


 ワタシが思うに、この記録から察するに、投稿された小説群が悪さしているのだろう。ムペンは利用者の一部から修羅の国と呼ばれるほど競争率の高い投稿空間なのだ。投稿者たちは閲覧数を毎日見てはその動かなさに苛立ちを隠せないだろう。それが異常記録から読み取れてしまう。


「そうですね。これは小説投稿空間そのものが原因なのかもしれません」


 小説投稿空間、六夢執筆のペンはいわゆる大手投稿空間だ。書籍化もされている小説も多い。だが、それが全てではない。無論、皆書籍化を目指して投稿しているのだが、閲覧数が伸び悩む執筆者も少なくない。閲覧数が伸び悩むどころか、零のまま埋もれる人も多いのだ。そういう人、というか投稿された小説には怨念が込められていた。ただ、一つや二つ程度では大したことのない量だが、それが相当量に達すると強力な怨念となる。小説情報統括端末の中に渦巻く怨念は相当なものだ。閲覧数零の作品はどうにかすべき問題だろう。だが、手の打ちようが思い浮かばない。さて、どうするべきか。


「この怨念を祓うには大変な苦労が必要になりますね」


 これは重大案件だ。これは始まりではない。むしろ今までに発生してこなかったことが不思議でならない案件だ。ムペンには申し訳ないが、公表するべきだろう。いや、すでに発生していたのかもしれない。

 電子情報網が発展してきた昨今。様々な情報が網目状に広がっていくこの世の中。様々な電子情報網の電子空間には多様な種類がある。個人の意見を投稿する場、作品を投稿する場。なんなら最近は日記のように日常の事柄を投稿する空間も存在する。

 対策はどうするかべきか。

 企業はどれを選ぶか。

 そもそも、これが我が省の案件なのか。本音を言えば超事調整委員会に丸投げしたい案件だ。我が省はこれでも忙しいのだ。公共交通機関や公共電波通信の安全を守るため我々は活動している。確かにこれは情報通信の安全に関わる問題だろう。だが、超事調整委員会か経済省にどうにか丸投げできないだろうか。他の案件に取り組みたい気持ちもでてくる。そもそも、企業の選定は商務経営省にやってもらいたいくらいだ。彼らの専門だろう。

 さあ、本当にこれからどうするか。電子情報網の糸に絡まり苦しむ、これが科学とオカルトの共存なのだろうか。


 *****

——運輸通信省 特別設備局

——異常記録検出事件 再調査不要案件

——対象情報空間:六夢執筆のペン

——調査対象:小説情報統括端末(閲覧数零作品の怨念集合体による異常記録)

(以下一部略)

——記録者:椎名 咲 印

—通信監視院照会済

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