ある夢の終焉 ②

 際限なく広がる空間を探索していたフェキシーは、一つの扉の前で立ち尽くした。

 その扉は張りぼて、先にあるのは壁だけだ。

 すでに百を越える扉を開けていて、数えきれないほどの階段を上った。


「もしも……父がわたしに会う気がなかったら……」


 扉の前で立ち尽くしたまま、次の一歩を踏み出せなくなってしまった。


「普通に考えてそうだよね。わたしに万が一でも説得されたら、パパはわたしの死を見送ることになる……」


 このまま、立ち尽くしていては作戦のすべてが無駄になってしまう。

 だが、無暗に探し回ってもたどり着ける可能性は低い。


「どうすればいいんだ……」


 フェキシーは考えながら走りながら、通信機越しにセレンの言葉が聞こえ始める。

「……ああ、そうだ」


 その言葉はとても力強く、他人に生を促す者だった。

 フェキシーは自分が死にたいと願う人を強引に立ち直らせながら、自分は死に臨もうとする矛盾に気付いてしまった。


「ああ……。嘘をつきすぎて、自分の本音も気付けなかったみたい」


 フェキシーは目の前の階段がさらに増えて、空間が広がる瞬間を見てしまった。

 立ち止まる理由ができてしまった。

 フェキシーは通信を切ると、その場にうずくまった。


「わたし……死にたくなかったんだ……」


 地面に向けて泣き叫んだ。

 頭の中を流れる『廃棄品同盟レフトオーバーズ』との日々、仲間の笑顔……。

 それ以上に鮮明にあの女性の死に顔、顔を失い拘束された人々、それから……。


「ごめん、ごめんね。クラム、みんなっ……」


 ガラガラになった声でそんなことを言う自分に、フェキシーはさらに絶望した。

 その肩を小さく、柔らかい何かがそっと触れる。


――あやまらないで、フェキシー……。


 顔を上げると、イルカのぬいぐるみのムーちゃんが浮いていた。


――ボクはここにいる。それもぜんぶ、キミのおかげなんだ……。


 フェキシーはその姿を涙で見ることができなかった。


――お父さんに会いに行こう。ボクにつかまって。


 フェキシーはそれを聞いて、クラムの強さを思い知った。

 クラムはきっと、自分が死ぬと分かっていたとしても、両親の元に駆け付けたのだろう。

 ムーちゃんはフェキシーの手を取って、階段だらけの空間を飛び、何もない空白に向けて飛び立った。

 よく見るとそこには、一つの扉があった。

 階段に隠れ、どの階段からもたどり着けない場所に正解の扉はあった。


――じゃあね、フェキシー。


 扉の前に着くと、ムーちゃんの体がパラパラと崩壊を始めた。


「ありがとう……ムーちゃん、クラム……」


 フェキシーは泣くのを止め、目の前の両開きの扉を力強く押す。

 鍵は掛かっていなかった。

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