怪獣博士のロケーション・ハンティング ④
俺はアジトまで着くとインターホンも押さずにドアを開けて玄関に入った。
不用心にもドアは開きっぱなしだ……なんて今さら思うのはニコル捜査官から『清掃人』の話を聞いたからかもしれない。
リビングには薄く明かりが着いていた。
「遅かったじゃねえか、心配したぜ」
そこにはアロハシャツのMMが、ソファにもたれ掛かり瓶コーラを飲んでいる。
「すいません。少し取り込んでて……」
「その様子だとメッセージも見てないな」
俺は言われてから携帯電話を確認した。
話があるから今日は早く帰って来いと、一時間ほど前にメッセージが入っていた。
「実は少し前にガサ入れがあるかもってタレコミがあってな。一応、今夜は全員自宅を出ないよう通達している。だから今、アジトにはカイカくんも含めて四人しかいない」
なんだ、知ってたのか……と俺は肩の力が抜けた。
「もしかして、カイカくんも知ってたのか? どっから聞きつけたかは知らないけどやるな。で、それを聞いたユウマがやる気になってる。お前もスタジオに来て手伝えってよ」
「……えっ、何をですか?」
「火事場泥棒」
話が呑み込めない俺に、MMは淡々と告げた。
▼ ▲ ▼
「……用事は済んだか?」
MMに言われた通り、一階の奥にある『スタジオ』に行くとそこにはすでにユウマとフェキシーが待っていた。
部屋の大きな机の上には目一杯にジオラマが広がっている。
植物の這った高層マンションが並ぶ緑豊かな島――特徴的な街の様子はエデンシティだとひと目で分かった。
「予定を変更した。本当は襲撃直前に下見をする予定だったが、警備が手薄な今、ロケハンの続きをする」
「ロケハンって……やっぱり、映画の撮影のためじゃないんですね」
「そうだ。今日行ったのは『ゴーストタウン』強襲のためのロケハンだ」
俺は薄々察していたが、いざ言葉にされると緊張が走った。
「怪獣を『顕幻』するための下準備だったんですか?」
「それもある。だが、元よりわたしたちの目的は『モルフォナ』の敷地内にある『隔離病棟』という建物にある。そこにはこの幻想世界の強度を高めるために眠らされた人柱が大勢いるだけでなく、幻想世界の根幹を担う男がいるという情報もある。人柱とその男の解放に成功すれば、今夜にでも『ゴーストタウン』を崩壊させることができるはずだ」
「今日、敷地の壁の近く駐車してそこを撮影したでしょ」
フェキシーが言いながらプリントした写真を俺に手渡した。
「特定の場所に行きたい時は、その場所をイメージしてから頭の中で『潜行』と呟いてね」
「……俺を待っててくれたんですね」
「そういうことだ。今日、妹さんを連れ帰れるならそれに越したことはない」
俺は覚悟を決めてその写真、『モルフォナ』の私有地を見つめた。
「……一人でできないなら手伝おうか?」
フェキシーが艶やかに微笑みかけてきた。
俺はその唇に思わず目がいき、それからユウマの冷ややかな視線に気付いた。
「いいや、俺一人でやってみる。今後困るかもしれないしな」
「ふーん……」
それらしい理由をつけて断るとフェキシーは拗ねたような声を漏らす。
「ごほん。では椅子に座ってくれ……」
俺は隅にあった背もたれ付きの椅子を持ってきて座る。
「写真を持ってよく場所をイメージして。それから『潜行』のためのスイッチを押せ」
俺はまず『モルフォナ』の製薬工場、それを囲う白い塀を思い出した。
それから、意識不明になったセレンの姿、『ゴーストタウン』で会った『モルフォナ』の人間の悪意の篭った笑みを思い出す。
頭の奥で熱が弾け、眩暈がするほどの怒りが沸き上がる。
――『潜行』。
そう心の中で叫んだ瞬間、現実の境界がぐらりと歪み始めた。
自分の意識が飛ぶ瞬間、もう一度、脳裏に製薬工場の白い塀を思い浮かべる。
目を開けると――。
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