#3
『ゴーストタウン』潜行開始 ①
人のいない街は日が暮れると、さらに静けさを増した。
俺とフェキシーは車の走らない道路の路傍を並んで小走りで進んだ。
「急がないとお肉がなくなっちゃう」
「この街、道とかやたら広いから見た目以上に距離があるんだな」
「そうそう。足がないとつらいよ。わたしやメグは自転車、コフィはセグウェイ、ボスには車があるからね……」
「そうだな。滞在中ずっと歩きもつらいからレンタカーとか借りられたら楽なんだけど……って、なんだこれ」
俺は別荘らしき住宅の塀にスプレーで落書きされてるのを見つけた。
公園こそ多少荒れていたが、住宅は至って綺麗だったので意外に思うと同時に、何となく故郷の路地裏が懐かしくなった。
「でも、こんなことする子供が……いる?」
「いやいや、わたしたちじゃないよ。まあ、やりそうなのがいないとは言わないけど……内容的にたぶん、観光客がやったんだと思うよ」
俺はそう言われて初めて文字に着目した。
だいぶ崩れているが、街灯の明りでギリギリ読むことができる。
「『See you next in Ghost Town』(ゴーストタウンでまた会おう)か……」
俺はその文字を見て胸の奥がざわついた。
「これってSNSの……」
たしかに、廃墟のような街並み目当てできた観光客が残しそうな文言だ。
だが、流石に偶然ではないだろう。
やはりあの神秘的な高層ビルや怪物の映る画像の舞台はこの――……。
「『モルフォナ』広報のイメージ戦略の結果、だね」
「『モルフォナ』? このハッシュタグは『モルフォナ』が流していたのか?」
「――ごめん、話はあとで。時間ないよ」
そういうフェキシーの声は少しだけ冷たかった。
「……分かった」
俺は無理には踏み込まず、彼女が話してくれるのを待つことにした。
途中、道路を歩く人影を何組か見かけた。
フェキシーは何故か彼らを大回りに避けて通った。
人影はそんなに暗いわけでもないのに何となく姿がぼやけて見えて、顔もよく見えなかった。
俺は何となく怖くて、フェキシーから離れないように気を付けた。
――ルールその一、夜間は一人で出歩かない。
俺の脳裏にはヤオ氏の語ったルールの一つが浮かんでいた。
その後言った、ゴーストがいるという冗談も……。
「着いたよ」
俺が本格的に怯え始める前に、フェキシーが一つの住宅の前に立ち止まった。
▼ ▲ ▼
庭付きの広い一軒家だった。弧を描くような特徴的な屋根や、ところどころにある丸い窓が目立つデザイナーズハウス。ガラス張りのリビングにはカーテンがかかっていて、明かりが漏れている。
フェキシーに連れられて門を潜り、鍵の掛かってない玄関のドアを開ける。
「――ボスのMM(マッドマッシュ)はもうカイカくんが来るのを知ってるから、あまり身構えないで」
「わかった」
俺は正直、名前から一体どんなガタイのいい不良が出てくるのかとビビっていた。
リビングのドアを開けると、ソファの上でグラサンを掛けた一人の男が瓶のコーラを飲んでいた。
「よう、久しぶりだな。カイカくん」
「あ、あたんは!」
MMことヤオ氏の姿を見て、俺はフェキシーの「殴り掛かりたくなる」といった意味を理解した。
「荷物は部屋に運んどいたけど、お礼はしなくていいぜ」
「くっ、はあ……知ってたのか?」
俺はMMではなく、フェキシーのことを見た。
フェキシーは小さく舌を出している。
「ごめんね。でも、おかげで仕事がいろいろ捗ったよ、ありがと」
俺はもう怒りも失せて、安心から力が抜けてその場に座り込んだ。
「お、来たんだ」
「遅かったね。デート楽しかった?」
コフィとメグも俺たちが来た物音を聞いてか、次々とリビングに集まった。
「まあね。カイカくん、結構頼りになるよ」
それから、わらわらと何人かの小さな子供が現れる。
「みんな一日、お勤めご苦労様。今日はそういうわけで、カイカくんの歓迎パーティだ」
MMはクーラーボックスから取り出した高級肉を掲げた。
「ようこそ、『
フェキシーはそう悪戯っぽい笑みを浮かべて両手を広げた。
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