第1話

 騒音で目が覚めた。

 男の名はエイト、と言った。八男だからである。 

 理由あって、ここの都の端の端、貧民窟とまで言われるこの地区に住んでいた。

 機嫌の悪そうに立て付けの悪い窓を開けると、夏の熱気が頬を撫ぜる。

 目の前の電線が火花を上げている。近くを通る路面電車が上げているのだ。満員電車は今にも倒れそうに走り、その周りを物売りが単車で追いかけている。

 見渡す限りの違法建築は軒先を道の中央まで伸ばし、その加減はとどまることを知らない。粗方二階建てで届けているのだが、大抵は堂々と増築する。屋上が数段重ねになっている、とのたまうのだ。男の住処も、第四屋上と呼ばれる六階にあった。

「エイトさん!」

 今度は玄関先の声にげんなりしながら、男は億劫そうに身体を起こした。開けると、一目でエルフとわかる少女が、目を細めながら仁王立ちしている。

「美人が台無しだぞ」

「びじっ……いえ、そうじゃなくて」

「美人だろ」

「へっ……じゃなくて、お仕事です!」

 顔を真っ赤にしながら、許可もなく腕を取った。そのまま戸外へ引きずってゆく。

「おい馬鹿力、飯がまだだ」 

「行った先にありますから!」 

 すっかり慣れ親しんだ、昼過ぎの光景である。

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戸締まり屋 猫町大五 @zack0913

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