友人リセット症候群

灰谷 漸

削除

また来てしまった。この時期が来る。

友人リセット症候群——年に何回か必ず発症するこの病だ。


人間関係が面倒に思えて、すべてを消し去りたくなる。

「私は一人でいい。友人なんていらない」

そう思ってしまうのだ。今回で発症は4回目になる。


学生のころ仲良くしていた親友の連絡先は、誰一人として残っていない。

そうなると、ますます落ち込みがひどくなり、ついには自傷や自殺未遂に陥ってしまう。


なぜ私はいつも自分を悲劇のヒロインに仕立て上げて、自らを追い込んでしまうのだろう。

どうせ一人になれば寂しくなるだけなのに、できもしないことを次々試して、泣きながら悲観してしまう。


このループを一生繰り返すのだろうか。

人間の感情とは、本当に面倒だ。


また、ひとりになってしまった。

そう思う瞬間が、夜になるといつも鋭く襲ってくる。


スマホの中に残るのは空っぽの連絡先と、スクリーンショットだけ。

思い出は画面の中で薄れていき、指先でなぞるたびに温度が消えていくようだ。


友だちの笑い声も、廊下でぶつかったときの言い訳も、全部どこか遠くのものになってしまった。


それでも、あの日々は確かに存在した。

滑稽で、くだらなくて、救われるような瞬間があった。


だけど今は、それを抱え続けることが怖い。

人に触れられると崩れてしまう脆さを、私は自分でも理解している。


だから先に自分で距離を切る。

先に線を引いた方が、傷つかずに済むはずだと。


そんな論理は、たしかに一時は効く。

誰かの言葉に怯えずに済むし、裏切りの痛みを未然に避けられる。


だけど、夜になると論理は薄くなり、感情だけが残る。

静けさの中で、私は自分の胸を覗き込む。


そこにいるのは冷めた決意だけではなく、

小さな灯——寂しさや後悔、かつて笑い合った顔の断片——だ。


私はこのループを何度も観察してきた。

発作のようにやってきて、しばらく支配し、やがてまた消える。


この病を治す方法は存在しないのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

友人リセット症候群 灰谷 漸 @hi-kunmath

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る