第2話 振り返る自室

(ドア越しの声)

「先輩、入っても大丈夫ですよ」


SE(ドアの音、屋内で木製なので軽め)


「はい。では、片付けていきますよ。」


「それでは、私は机の上からやっていきますね。掃除は上からやってホコリを落としていくのが鉄則ですから。」


「では、まずはこのエナジードリンク缶のタワーからいきましょうか。しかしこれ、本当に凄いですね。力作……とは言いたくないんですが。机の右側ほとんど占領していますね。」


SE(缶がぶつかる音が数秒、ビニールに缶投げ込むイメージ)


「これ、20本以上ありますよね。さすがに飲みすぎじゃないですか?」


「部屋の様子で大学の課題が忙しいのはよくわかりますよ。でも、エナジードリンクは飲む数減らしてくださいって、前回も言ったはずなんですが……。」


「せめてこう、お茶とか、コーヒーとか、そういう飲み物からカフェインを摂取してください。」


「そういえば、昨日先輩は1時ぐらいに寝落ちしてましたけど、普段先輩って何時ぐらいに寝ているんですか?」


(若干秒、無言)


「え、朝の3時?大学の1限って何時からでしたっけ?」


(若干秒、無言)


「8時半から?じゃあ毎日5時間も眠れないじゃないですか……。それじゃ体壊しちゃいますよ。」


「私との夜の通話、少し減らしましょうか。先輩もそちらの方が課題に集中できるんじゃ………」


「って、そんな悲しげな顔しないでください。そんなに私との通話好きなんですか?まぁ、私は楽しいですけど。」


(若干秒、無言)


「はい、はい。わかりましたから、もう。作業効率が上がるとは思えませんけど、先輩がそう言うなら通話の頻度は減らしません。」


「でも、先輩はなるべく早く寝るよう心がけてください。体壊しちゃマズいんですから。頑張ってるのは十分知っていますけど、頑張り続けられるように頑張りましょう。」


「ほら、先輩はそっちの積み上がっている……授業のプリント?論文?ですかねこれ。とにかくそこの紙の束。捨てるなり、残すなり、判断して整理してください。はい、これゴミ袋。」


SE(ビニールが擦れる音)


「残りの机の上のものは、私が判断して捨てちゃいますからね。見た感じほとんど弁当ガラかティッシュかみたいですから。」


SE(ガサガサとした音)


「わかりました、気になるのあったら聞きますね。」


SE(ガサガサとした音)


(ちょっと小声)

「あれ、これ、映画の半券みたいですけど……え、初デートで行った映画のやつじゃないですか」


(通常の声量に戻して)

「先輩、この映画の半券、わざわざ取っておいてくれたんですか?」


「そういう思い出を大切にするところは好きですけど、次からはもう少し綺麗な場所で保存するようにしてくださいね。」


「でも、ちょっと驚きました。先輩、こういうの大切にする方だったんですね」


「確かこの映画見たあと、二人で喫茶店に入って感想戦をしたんでしたっけ」


「二人とも良い映画だって言うんですけど、それぞれ全然違うところを褒めていて」


「なんだか熱が入っちゃって、結局2時間ぐらい話してましたね」


「確かに、楽しかったなぁ、あの時間」


「そうだ。先輩、せっかくですし、今日のデートは予定が決まっていなかったら映画にしませんか。」


「映画のあとは喫茶店に入って、まただらだらと映画のお話でもしましょうよ」


「それと、映画の待ち時間で映画の半券みたいな思い出を溜めていく入れ物も買いましょう。お揃いのものを選んで、一緒に入れていくの、なんか楽しそうじゃないですか?」


(若干秒、無言)


「よし、じゃあそれで決まりですね。先輩と映画に行くの何ヶ月ぶりだろう、楽しみだなぁ。」


「そうと決まれば、早く部屋の掃除終わらせちゃいましょう。」


「あれ、先輩全然進んでないじゃないですか。これじゃ映画行けませんよ!はい、手を動かす!」


(若干秒、無言)


SE(ビニール袋を置くような、どさっとした音)


「ふぅ、さすがにだいぶ片付きましたね」


「先輩もお疲れ様でした。これでひとまず……3週間ぐらいは大丈夫でしょうか。そのぐらいしたらまたデート前に掃除しにきますから。先輩は今日より汚くしないようにしてください。」


(若干秒、無言(他より少し長め))


「なんで少し間(ま)が空くんですか。私だって毎回掃除に来られるかわからないんですから、先輩にはせめてゴミ出しぐらいできるようになってもらわないと。」


「また渋い顔して。そんな顔したって、ダメなものはダメです。しっかりしてください。先輩には最低限一人で生活できる生活力を身につけてほしいと思ってるんですよ。」


(若干秒、無言)


「どうせ一緒にいるから~、じゃないです!むしろ今後一緒にいるなら、なおのこと分担にして家事することになると思いますし。たまには私だって休みたい日もあるでしょうから」


「そのあたりのバランスも大切なんですよ。お互い支え合って行かないと、こういう関係続けるのは大変なんだって、先輩のお母さんも言ってましたし。」


「あと、平然と今後も一緒にいるのを前提にしないでください。」


(若干秒、無言)


「べ、別に別れるなんて、そんなつもりありません!全然ありませんから。ほんとですって。部屋が汚いのには毎回呆れていますけど、それはそれです。逆に先輩の欠点なんてそれぐらいだと思っていますし。」


「ただ、その、私が事故に遭ったり、病気で入院したり、先輩が今後就職して遠距離恋愛になったり、そう言うこともあるかもしれないって話です」


「先輩が先輩だけになってしまっても、ちゃんと生活できてほしいですから」


「もう、変なこと言わせないでください。とにかく、次は今回よりもなるべく綺麗な部屋にしておいてください。いいですね。」


「それとエナジードリンク、数えたら全部で35本ありましたから、その時よりは少なくするようにしてください。1日1本でも3週間でだいたい20本ですから、それぐらいならできますよね?」


(若干秒、無言)


「はい。良いお返事です。次も数えますからそのつもりでいてくださいね。」

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