第19話 見たことのない魔物

 「ここだよ」


 先頭を進むリゼリアが、足を止めて振り返った。


 リゼリアが報告した翌日。

 彼女に案内されて、アルタ達は第二層の遺跡を訪れていた。

 ただし──。


「調べた限り、未発見の遺跡」

「今の時代に未発見なんて出てくるんだ……」

 

 それにはカノンも驚きを隠せない。


「アルタの道具のおかげ」


 リゼリアは【精霊コンパス】を持っている。

 アルタが持つ精霊の感覚を可視化した道具だ。

 それを用いて、未踏の遺跡を発見していた。


 アルタも精霊の声を聞いて確かめてみる。


「本当だ。精霊も下に向かってる。この先に何か大きな物があるんだ」

「うん。でも、この先には……」

「そうだったね」


 リゼリアは事前に報告していた。

 この奥には“見た事がない魔物がいた”と。

 それも含めて、アルタ達は警戒心を強めて遺跡に侵入する。


「とりあえず進んでみよう」


 アルタ達は精霊を追従するよう、足を進めていく。

 今までよりは大きな建物だ。

 中は神殿のような柱が複数立っており、どこかおごそかさを感じさせる。


 しかし、広間に入ったところでリゼリアが周りを制止させた。


「止まって。あれだよ」

「……!」


 広間の中央に、謎の魔物が後ろ向きでたたずんでいた。

 四足歩行の体は、焦げ茶色の毛皮が包まれている。

 後ろ姿はイノシシのような獣だ。


 しかし、魔物研究家であるカノンが見分けをつけられない。


「トシノシシ? いや、ツパリシシ……でもなさそうだけど」

「やっぱりカノンでも知らない魔物?」

「知らないというよりは、微妙に特徴がズレてるというか──って、前!」

「……!」


 すると、振り返った魔物がアルタ達に突進してきた。

 

「ヴァウウッ!」

「「「……!?」」」


 だが、攻撃はアルタ達には届かない。

 アルタ達の直前で、魔物が何かにぶつかったのだ。

 透明な壁にでもさえぎられたかのように。


 ライセナは直感のままを口にした。


「今の不可解な動き、この広場に閉じ込められてる?」

「なんか色々とおかしい……!」


 リゼリアも疑問を持っている。

 建物といい、魔物といい、英雄である彼女たちが体験したことないものばかりだ。

 そんな中、一番驚いていたのはアルタだ。


「まさか……そんな、いやでも……」

「どうしたのアルタ君。何か気づいたなら言って」

「……っ」


 アルタが動揺した顔を浮かべている。

 幼馴染の三人でも初めて見るような顔だ。

 アルタは疑いたいと思いながらも、読み取った事を口にした。


「あの魔物は……錬金術で造られてる」

「「「……!」」」


 魔物の四肢には、異質な金属のような物がくっ付いている。

 カノンが断定できなかったのは、この特徴があったからだ。


「ヴァウゥ……」


 アルタはその一つ一つに目を向けていく。

 

「部位の至るところから、精霊の気配を感じるんだ。あれは、俺が錬金術で武器を作るみたいに体を錬成れんせいされてる……」

「そ、そんなこと……!」


 ──できるわけない、とは言いたい。

 だが、実際に目の前で起きている事実だ。

 すると、さらに情報を読み取ったアルタはしたくちびるむ。


「あの魔物、苦しんでる!」

「グゥゥ……」


 錬金術を施された部位を介して、悲痛な叫びが聞こえてきたのだ。


「錬金術は自らやったわけじゃないと思う。精霊も離れたがっているんだ。けど、何か強い力に縛られてる!」

「つ、つまり?」

「勝手に力を蓄えるせいで、魔物はどれだけ苦しくても死ねないのかも」

「……っ!」


 錬金術のせいで、魔物は勝手に生き永らえさせられている。

 魔物の意思に関係なく。

 もはや拷問のようなしょぎょうだ。

 

 さらに、カノンは目を見開きながら口にした。

 自然と恐ろしい想像が出来てしまったのだ。


「あの魔物は、古代からずっとあの状態ということ?」

「……!」

「ここに閉じ込められて、死ぬことも許されないで、あのまま……」


 現代の錬金術師はアルタしかいない。

 ならば、古代の錬金術師に施された後、魔物は放置されたと考えられる。

 すると、アルタが一歩前に出た。


「そんなこと、許されない」

「「「……!」」


 その声色からは、動揺と共に静かな怒りが感じられる。

 やるせない気持ち、同じ錬金術師としての責任、様々な感情が入り混じっていた。


「俺が解放してやる」

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