第17話 憧れたままの姿

 「あれが階層ボスだね」


 ゴツゴツした山のふもとで、アルタは見上げた。

 隣にはライセナとアモフも一緒だ。


「行きましょうか」

「わふっ!」


 彼らが相対あいたいしたのは、第二層の階層ボス『オーガ』。


「ギャオオオオオオ……!!」

 

 見上げる程の青紫の巨大なたいに、右手には大きな棍棒こんぼう

 遠目にも分かるきょうじんな肉体は脅威的だ。

 さらに、今の時期は“タイミング”も良くない。


「……! 退避!」

「ギャオオオオ!」


 オーガが棍棒を振り下ろすと、衝撃が地面を伝ってくる。

 アルタ達がいた地面は、ぱっくりと割れていた。

 回避しなければ、真っ逆さまに落ちていただろう。


 ライセナは冷や汗をかく


「本当に凶暴みたいね……」


 この時期のオーガははんしょくだ。

 普段より縄張り意識が強く、凶暴化しているという。

 この時期は、絶対に近づいてはならないと言われている。


 同じ脅威度Aの中でも、その強さは第一層のワイバーンを遥かにしのぐ。

 さらに、オーガは一体ではない。


「「「グオオオオ……」」」

「「「……!」」」


 今の音を聞いて、周りから複数のオーガが集まってきた。

 縄張りの危機を感じたのだろう。


「あれは子分たちだね」

「ええ。一体一体も強いわ」


 ボス本体に体格は劣るが、それでもアルタ達の数倍はある。

 この取り巻きも一緒に相手にしなければ道は開かれなない。

 本来ならば、迷わず引き返すところだ。


「けど、私たちは急がないと」

「うん」


 アルタ達は『古代の遺物アーティファクト部品パーツ』を一刻も早く見つけなければならない。

 タイミングを考えている暇などなかった。


 ライセナは一つの道具を取り出す。


「遺跡はオーガの縄張り内にある」


 丸い道具の中に付いた指針は、オーガの奥を指していた。


 これは【精霊コンパス】。

 アルタが錬金術で製作した道具だ。

 古代の遺物アーティファクトから着想を得て、精霊が向かう先を表せるようにした優れ物。


 すなわち、アルタの感覚を共有できる道具だ。

 リゼリア・カノンにも渡してある。


 遺跡の場所を再確認して、アルタはうなずいた。


「今は探索者が近寄らない。この先にある遺跡も独り占めできる!」


 『古代の遺物アーティファクト部品パーツ』は、未踏の地にある可能性が高い。

 誰も調査できていない所が目ぼしいのだ。

 その中でも、一番難易度が高いこの場所にアルタをぶつけた。

 

「行こう!」

「ええ!」

「わふっ!」


 アルタ達は散るように行動を開始する。

 留まっていては、先ほどの地面が割れるような攻撃をもらうからだ。

 

 すると、ライセナは杖を地面に付いた。

 神器【雷導杖エレダイン】だ。


「【雷導解析エレスキャン】」


 ライセナは空間全域に雷を走らせ、周囲の情報を把握した。

 その中に、地形のほころびを見つける。


「ここは地脈ね──【雷導振動エレバイブ】」


 地脈は、大地のエネルギーが流れる通路。

 そこに大量の雷を流し込む。

 すると、ゴゴゴゴと大地がとどろき──ドガアアアアアッ!


「「「グオオッ……!」」」


 大地からエネルギーが大爆発した。

 先ほどのボスオーガの棍棒、いや、それ以上の破壊力だ。

 子分オーガ達は、一斉に空中へ打ち上げられる。


 その間、アルタはアモフとオーガの元へ。


「俺たちでボスをやるよ!」

「わふーっ!」


 アモフはアルタの先を行くように、バッと飛び出す。

 得意の速さでボスオーガに迫った。

 しかし──。


「ギャオオッ!」

「わふ!?」


 オーガが足をジタバタさせると、それだけでひびきが発生する。

 あまりに圧倒的な体格だ。

 それにはアモフも慌てて引き返す。


かつには近づけないな」

「わふ…‥」


 アルタはアモフを手で迎えつつ、足を止めた。

 足には【疾風の靴ウインド・ブーツ】、右腕には【迅雷の手甲ライトニング・ガントレット】を装備しているが、一度様子を見る。


「オーガ相手には微妙だな」


 その二つの装備を合わせた必殺技──【疾風迅雷砲ライトニング・トルネード】。

 あれは威力はピカイチだが、発動が早くない。

 近づけば地響き、遠くからは棍棒を構えるオーガには、中々繰り出すチャンスをもらえない。


「だったら、動きを止めるまでだ」


 すると、アルタは新たな装備を取り出した。


「【氷結の手袋クリスタル・グローブ】」

  

 水色に輝く手袋だ。

 それを左手に装備する。

 右腕に【迅雷の手甲ライトニング・ガントレット】、左手に【氷結の手袋クリスタル・グローブ】の構えだ。


 ライセナは目を見開く。


(アルタ君の三つ目の装備……!)


 本来の探索者は、パーティーで役割を分担する。

 だが、アルタにその必要は無い。

 いくつもの神器を同時に使いこなし、一人で複数の役割を担えるのだから。


 アルタはその真価を発揮する。


「おりゃあああ!」

「ギャオオオオ!」


 アルタは【疾風の靴ウインド・ブーツ】を全開にし、オーガに向かう。

 オーガも対抗して、棍棒を振り下ろした。

 しかし、アルタは止まらない。


「【氷結波クリスタル・ウェーブ】」

「ギャオオッ!?」


 左手を前方に振り払うと、アルタの前に氷の荒波が出来上がる。

 氷はオーガの棍棒を凍り付かせ、その運動を完全に止めた。

 アルタは左手を輝かせたまま、オーガの周りを回るように空へ舞い上がっていく。


「氷+風」

「ギャオ、オ……!」


 オーガを囲う竜巻を起こしながら、そこに氷を付け加えたのだ。

 まるで猛吹雪に襲われるように、オーガは凍り付いていく。

 やがて、アルタはオーガの頭上を越える。


「【氷結竜巻クリスタル・トルネード】」

「……っ」


 その時には、オーガの全身はすでに凍り付いていた。

 あとは、動かない敵に攻撃を当てるだけ。

 アルタは右腕を構えた。


「決めるよ──風+雷」


 その姿を見ながら、ライセナは思考を巡らす。


(これが今のアルタ君。お姉さんが憧れたままの姿だね)


 ふと想起するのは、幼少期の記憶だ。


 今と同じく、ライセナは昔からお姉さん気質だった。

 遊ぶのが、アルタをはじめとした、年下の幼馴染だったというのもあるだろう。

 その視点からは周りがよく見えた。


 特に、アルタのことは一番気にしていた。


古代の遺物アーティファクトも、アルタ君が好きそうって思ったんだっけ)


 年長の視点から、アルタが好きそうな物を理解していた。

 古代の遺物アーティファクトがその最たる例だ。

 初めてそれに触れた時、アルタが興味を持つかなとまず考えた。


 そう思うと、もっと欲しくなる。


(たくさん集める内に、お姉さんもハマったんだよね)


 アルタはこの形が好きそう、これはもっと好きそう。

 そうやって触れる中で、ライセナ自身も古代の遺物アーティファクトにのめり込んだ。


 古代の遺物アーティファクト収集家のきっかけは、一つの恋だった。

 誰にも知られていない真相である。

 アルタと同じ物にロマンを感じるのは、ライセナ自身が性格を合わせたからだ。

 

 そんな懐かしい事を思い出しながら、ライセナは現実に意識を戻す。


「ぶちかましちゃえ」

「【疾風迅雷砲ライトニング・トルネード】……!!」


 ──ズドオオオオオオオオオン!!


 竜巻の渦に雷を突き刺す、アルタの必殺技だ。

 上空からの特大威力は、凍り付いたオーガを容易く貫通する。

 その地面には、下が見えない程の深い穴が開いていた。


「俺たちの勝ち!」

「うふふっ」

「わふー!」


 第二層の階層ボス、オーガ。

 繁殖期により普段より凶暴化した個体を、アルタ達は討伐した。

 後日、これもまた首都で語られることだろう。


 すると、アルタは奥に目を向ける。


「行こう、この先の遺跡に」


 『古代の遺物アーティファクト部品パーツ』を求めて──。

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