サンタを知った男の子

五來 小真

サンタを知った男の子

 貧乏な家に生まれ育った男の子は、六歳になってようやくサンタクロースの話を聞かされた。

 男の子は興奮し、目を輝かせた。

「そんな人がいるんだね——!」

「サンタさんに、何をお願いするの?」

「んーっとね、……。―ちょっと考えてみる」

「手紙を出さないといけないから、早くしてね」

 

 男の子はプレゼントを考えるに当たって、煙突を探した。

 サンタクロースの話を聞いてて思ったのだが、そもそも煙突などあったのだろうかと考えたのである。

 話に聞いていたような立派な煙突はなく苦労したが、おそらくこれだろうというものをようやく見つけた。

 それは空き缶ほどの筒状で、太っちょな老人が入るのは不可能だった。

『仮にサンタクロースが通れたとしても、この大きさか……』

 男の子は具体的なイメージを浮かべてみる。

 小さなサンタクロースが、野球のボールを……。

『重そう。―軽いものじゃないとかわいそうだ。―そもそも包装して持ってくるだろうし……』

 

 次に男の子は自分の靴下を調べてみる。

 力いっぱい引っ張っても、あまり伸びるようなものはなかった。

『お父さんの靴下なら……』

 一瞬そう考えたが、父の靴下も大して大きくはなかった。

 いや、下手に自分のものでない靴下をさげると、ルール違反でプレゼントをもらえないかもしれない。

 となると、男の子自身の靴下が無難になる。

 そこに入るもの……。

『お菓子?』

 シュークリームやケーキ。

 スーパーで目にすることはあっても買ってもらったことはない。

 聞いた話では、凄くおいしいらしい。

 友達に話したら、『食べたことないの?』と驚かれた。

 シュークリームぐらいなら、なんとか煙突も通るのではないだろうか?

 箱じゃなくて、紙包装にしてもらえれば。

『うん、いけそう』

 しかしそう考えたら、昔母親に怒られた記憶がよみがえった。


『靴下に落ちた食べ物は捨てなさい。―汚いでしょ』


『落ちた訳じゃないけど、入ったものもダメかなぁ? いや、でも包装されてたらいける……?』

 靴下に入った時点で無理そうに思えた。

 そうして考えていると、母親がやってきた。

「サンタさんに頼むものは決まった? そろそろ決めて」

 そう言われて男の子は考える。

 重いものはダメ。かさばるものもダメ。お菓子もダメ。

 どうやら自分の欲しいものは難しいらしい。

 ならば逆に、僕が贈るものをもらうというのはどうだろうか?

 母親の指を見て、指輪はどうだろうと考えた。

 いや、どうせならお父さんも喜ぶものが良い。

 いつも『ないない』と言って苦労してきたのを目にしてきたのだ。

 あれを贈ってあげれば、きっと喜んでくれるだろう。

「お金」

「そんなもの、サンタさんはくれませんよ」

 母はピシャリとそう言った。


 その年のクリスマスは男の子に何も届かず、去年までのクリスマスと何一つ変わらなかった。


 <了>

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サンタを知った男の子 五來 小真 @doug-bobson

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