第2話 帰り道

(そういや最近PI超常的侵略者の出現率高くない?)

(先月と比べて今月の出現ペースはおよそ1.7倍になっています)

(これって気のせい?)

(原因は不明ですがよく警戒しておくに越したことはないかと)

(うーんまあそうするしかないよね~)



 シロとテレパシー的な何かで会話しながらてくてくおうちに帰る。シロと俺とはなんか実際にしゃべらなくても意思疎通ができる。

 ほかの魔法少女がどんなもんなのか聞いたことがないからわからないけど、なんかうちのシロとは特に意識することもなく最初からできた。これが絆の力だね!


 戦闘の時は戦闘のことを考えていたいからそのまましゃべるけど、ふだんからふよふよしてる光の玉とおしゃべりしてたらさすがに外聞が悪い。俺は魔法少女として人を助けたいとは思っているが、別に目立ちたくはないのだ。


 というか他の魔法少女ってどんな感じなんだろう。なんか魔法少女が所属してる組織があるっていうのはうっすら聞いたことがあるけど……。

 魔法少女友達が欲しいよ~。魔法少女あるある言って盛り上がりてえ~。


 でも正直同い年くらいの女子とどんな話して盛り上がればいいんだろう。精神年齢的には倍くらいの差があるし、共通の話題が魔法少女関係しかないんじゃないか?

 バイト先で知り合った人とする「この作業大変ですよね」「わかります」みたいなスカスカの会話で場を満たさなきゃいけないんじゃないか?ウワー!考えるだけで嫌になってきたぜ!



(そんな心配をしなくても関わる相手がいませんよ)

(うっ……)

(まともな友達の一人でも作ってから心配したらどうですか)

(……はい)



 泣いちゃいそう。ふつうに。前世の分も合わせれば大の男が泣いちゃいそう。ノンデリ精霊がよ……!



(大の男といっても外見はすっかり小の女ですよ)

(気持ちは男の中の男なの)

(男の中の男は語尾に「なの」ってつけないと思います)

(ぐっ……)



 この精霊、強い……! 言葉尻を的確にとらえてきやがる……! いいだろ……! 男の中の男が「なの」って語尾でも……! 確かにイメージにはそぐわないけど、それも時代じゃねえか!


 とはいっても、実際転生してから15年女性として生きてきた。これが男の中の男の姿かと言われるとなかなか首をたてには振りづらい。


 愛しのお母様に言葉づかいだとか所作だとか、そういったことをビシバシ矯正されてから、若干心まで女性的になった気がする。ふしぎ。



(見た目は整っているのですから、友達を作るのもそう難しくないでしょう)

(お前なあ、世の中はそんな簡単じゃないんだって。俺くらい見た目がいいと面倒なこともあるんだから)



 それに、結局俺は女性中心のコミュニティに属したことがない。だから女性のコミュニケーションがよく分からない。


 世のすべての女性が母さんのようにエネルギッシュで、全てを巻き込む竜巻のような人間ではないことくらいはわかっている。


 人間というのは異物を排除する生き物で、精神が男のままだった俺はコミュニティの完全な異物だった。


 小学生だったころ、感覚が男のままだから、なんとなく女の子と遊ぶのが気恥ずかしくて、男の子とよく遊んでいた。そっちの方が気楽だったから。


 つまりは、楽な方に行っただけだ。んで、女の子と全然遊ばないのに男の子とばっかり遊んで、それが気にくわないってやつも当然でてくる。なまじ俺が美少女だったのも変にこじれた原因だろう。


 そうなると、積極的排除が始まる。だんだん話しかけても無視されるようになる。女の子から無視され始めると、だんだんそれは男の子にも広がっていって、どんどん孤立していく。


 気づけば女の子のコミュニティにも、男の子のコミュニティにも入れない、ぼっちの完成だ。


 俺は別にぼっちでも気にしてなかった。前世でも別にぼっちだったし、慣れたものだったから。


 でも、母さんと父さんは違った。ひとり娘が孤立していたら、親としては心配せざるを得なかっただろう。


 俺が孤立した分、母さんと父さんは熱心に愛を注いだ。その愛を突っぱねられるほど俺は子供じゃなかったし、当たり前の顔をして受け取れるほど大人ではなかった。


 つまりはとても苦しかった。情けなかった。親に心配されるということが、ここまで胸を締め付けるとは、思わなかった。


 愛される側にも、愛されるための準備が必要なのだ。前世では、俺は愛されたことは無かったし、上手く愛をそそげたこともなかった。


 自分のために生きて、愛をそそいでいるように見えたことは、そうしないと苦しくなるからしていただけだった。何事にもお手本はあった方がいい。これは本当に。



(どうしたのですか。仏頂面で考え込んで)

(うわあ! 急に思考に割り込むな!)

(いきなり黙り込んだものですからつい)

(あー、悪かった)

(マリはニコニコしている方が似合ってますよ)

(……お前さ、口説きに来てる?)

(いいえ。事実を述べたまでです)



 この精霊、強い……! 百戦錬磨のモテテクニックの使い手か……! 普段のていねいな言葉づかいも、説得力を高めるためのキャラ付けか……!?



(なにか失礼なことを考えていませんか?)

(イエ、マッタク?)

(そうですか。では考え込んだ結論はでましたか?)

(何事も中途半端はよくないってことかな)

(なるほど)



 そんなふうにシロと言葉のキャッチボール……いやドッヂボールだったか?をしていたら気づけば家の前まで来ていた。



(ふしぎだよな)

(何がですか?)

(家までの道ってちゃんと前を見てなくてもいつの間にか着いてるじゃん。人類の神秘を感じるわ)

(そんなことで人類の神秘を感じないでください。むしろ手からビームを出しているんですから、そちらの方がよっぽど神秘ではないですか?)

(ビームはなんか感覚的に理解できるんだよな)

(ええ……変な人ですね)

(変な精霊にいわれたくないよだ)


 5階建てのマンションのエントランスに入る。

 304と打ち込んで、エントランスのインターホンを鳴らす。しばらくして、応答中のランプが赤く光る。



ゆいさーん。ただいまー」

『おかえりなさい、麻里ちゃん』



 スーッとスライド式のドアが開く。いつもはドアの先を左側に曲がってエレベーターを待つけど、今日は右に曲がって階段を使う。


 今日のPIは雑魚だったし、不完全燃焼感があるからせめてもの抵抗だ。別にこれくらいの運動でどうにかなるわけじゃないけど、気分的にね。気分的に。


 階段を登りながらふと思う。



(オートロックとかエレベーターとか、正直そっちの方が全然構造が理解できないわ。神秘だね。)

(マリが機械に関してモノを知らなすぎるということでもあります)

(むっ。じゃあインターホンの仕組みを教えてよ。なんで離れているのに声が聞こえるの?)

(……機械は精霊である私の領分ではありません)

(ほら! シロも分からないんでしょ!)

(……)

(おらぁ! なんとか言ってみんかい!)



 この精霊、弱い……!

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