TS転生したし魔法少女になって世界でも救う

酒井迷(さかいまよう)

第1話 魔法少女マリ

 世界は今21世紀半ば。科学技術は急速に発展し、車は空を飛び、どこにでも一瞬で行けるワープ技術が発明され、困ったときは助けてくれるロボットが開発された――なんてことはなく。

 むしろ世界は少しだけ神話やおとぎ話の時代に逆行した。


 なぜかというと、「Paranormal Invader超常的侵略者」の存在だ。あのクソボケエイリアンはどこかから急に現れ、瞬く間に世界中の文明に大きな被害を与えていった。それは先進国も発展途上国も関係なく、平等にその動く災害は暴れていた。


 なぜ発展したはずの科学の力で傍若無人にふるまうPIParanormal Invaderを止めることができなかったのか。これはひとえに、奴らには特定の手段以外での攻撃が通用しなかったからだ。


 機関銃に撃たれても、ミサイル弾が直撃してもPIたちの歩みを止めることはできなかった。これ無理じゃね……?って世界中のみんなが思った。たぶん。大統領も総理大臣も、ペットの金魚だってきっと思ったに違いない。


 じゃあなんで世界はまだ終わっていないのかといえばかんたんな話で、奴らに効く特定の手段が見つかったからだ。それは一般に、魔力だとかマナだとかオドだとか氣だとかチャクラだとか……まあいろんな呼び方はあるが、いわゆるを利用した攻撃だった。


 こんな科学全盛の時代に不思議パワーってなんだよと思うけど、それしか効かなかったんだから仕方がない。


 こんな時代になっても仙人だったり魔女だったりといった不思議パワーの使い手というのは細々と技術を継承していたらしく、なんかうまいことやってPIを倒したらしい。ざまあないぜ。


 一度倒し方が分かれば潮目が変わって、不思議パワーの使い手たちが世界各国でがんばったらしい。ふわふわしてるのはあんまりここら辺の歴史に興味がなかったからでぇ……決して授業中に寝ていたとかそんなことは無くてぇ……。


 こんなことをわざわざ思い返しているのも、俺自身も不思議パワーの使い手だからに他ならない。かといって両親が陰陽師の血筋だったとか、生まれながらにしてサイコキネシスが使えたとか、そういうことではない。普通の家庭に生まれて、素晴らしく愛を注がれてすくすくと育ってきた。


 ちょっと違うところがあるとするなら、前世の記憶が残っているくらいなことだ。


 前世の俺はさえない男で、いつも猫背で髪はボサボサ。家族と二言三言話すくらいで、学校では特に誰かと会話することはなく、クラスでも浮いていた。


 浮きすぎてむしろ気を使われていたくらいだ。なんだか胸のあたりが痛くなってきたな。まだ15歳なのに不整脈かな? おかしいな……。


 それに比べて今世は美少女! 美少女! 美少女である! 黒髪ボブカット美少女である! ぱっちりした目! すっと通っている鼻筋! シミひとつない透き通るような肌!


 中身は多少ポンコツであるにしろ、外見は誰が何と言おうとパーフェクトな美少女なのである! 最愛のお母様によってビシバシ鍛えられた俺はもはや無敵の美少女なのだ! サンキューマッマ! フォーエバーマッマ!


 こんな完璧美少女がどんな不思議パワーの使い手かはもうわかるよね。そう、魔法少女だね。


 たいへんよくできました。はなまるあげちゃう。そんな完璧美少女兼魔法少女が夕暮れ時に公園でボーっとしている理由、わかるかな?



『マリ、そろそろ来ますよ』

「ありがとうシロ。それじゃ、変身しようか」



 この光の玉にブーメランみたいな羽が対になって生えているのは、俺の契約精霊であるシロだ。ニチアサでいうところのマスコット的なやつ。完璧美少女の俺こと大出麻里おおでまりは、精霊シロと協力して魔法少女に変身するのだ!



「いくよ。変身!」



 そう唱えて魔力を解放した瞬間、みるみるうちに髪の色が吸い込まれるような黒から透き通るような白へと変化し、体にまとわりついた魔力によって服装も学生服から真っ白のミニ丈のドレスへと変わっていく。

 手には肘くらいまでを覆う白手袋が、脚には白のハイソックスと白のパンプスが装着される。変身後のデザインはシロ監督に一任しているが、こいつもなかなかにいいセンスをしている。まあ素材がいいから何を着ても似合うんだけども。


 そうして変身が終わると、にわかに目の前の空間がゆがみだし、そこから怪物がぬっと姿を現した。

 象のような質感を持つ青い表皮。

 そこから生える六つの足。

 本来なら頭があると思われる部分はぽっかりと穴が開いており、その中にはやすりの様な細かい歯?骨?のようなものがびっしりと生えている。

 人類の敵、ドブカス外来種ことPIのご登場だ。図体は大きいが魔力量的にはせいぜい中級下位止まり。このマリちゃん様の敵ではない。


 足に魔力を流して爆発的に加速し、PIとの距離を一瞬で詰める。経験的にこいつらPIは出てきた瞬間が一番隙がある。

 戦いは先手必勝。相手がごちゃごちゃしたことをする前につぶすに限る。防がれたら防がれたときに考えればいいんじゃよってイマジナリーおじいちゃんが言ってた。


 相手がこちらを認識するかどうかの瞬間、こぶしに魔力を込め胴体目掛け思いっ切り振りぬく。ドムッという鈍い音。確かに芯を捉えた手ごたえ。



「グオオオオオッ」

「効いたか?クソ野郎」



 PIが膝を屈する。ずいぶんパンチが響いたのか、唸るように叫んでいる。一丁前に痛みは感じるらしい。血も通ってないくせに大げさなことだ。



「とっとと片付けよう。シロ、合わせて」

『わかりました』



 手を突き出し、親指と人差し指で円を作るようにする。体内を循環する魔力を手に集め、放つ。



「マリちゃんビーム!」



 ちゅどーん。あわれPIは爆発四散。こうしてまちにへいわはおとずれた。PIの出現から撃破までこの間わずか10秒。これは世界記録も夢じゃないな……。



『お疲れさまでした。ですがやはり必殺技が「マリちゃんビーム」という名前なのはどうかと思うのですが』

「覚えやすくていいじゃん」

究極光麻里波動砲アルティメット・フォトン・マリ・ブラスターなどはいかがでしょうか』

「ながい。却下」

『そうですか』

「そんじゃ帰ろうか。今日はもうここら辺にはPI来なさそうなんでしょ」

『はい……』


 シロが分かりやすくしょげてる。この精霊表情がないくせに感情表現が豊かなんだよな。羽が斜め下を向いているし、心なしかフラフラしているように見える。

 でも究極光麻里波動砲アルティメット・フォトン・マリ・ブラスターはちょっと覚えてられない。とくにフォトンが絶対どっか行く自信がある。自慢じゃないが、そんなに物覚えは良い方じゃないのだ。



『……』

「……」



 き、気まずい。クソっこの精霊、情に訴えてきやがる。出会ったころはもっと無機質というか塩対応だったのに。しかしここで折れては相手の思うつぼ、ここは心を鬼にして毅然とした対応を貫かねば……。



『……』

「……」

『……』

「……ブラスターはアリかも」

『……! そうですか。では今後波動砲ブラスターを軸に必殺技の名前を考えておきます。楽しみにしておいてください』



 あー負け負け。俺の負けだ。ブラスターが確定してしまった。シロはネーミングセンスは壊滅的だが、名前つけに意欲的なんだよな。明日になったら忘れててくれねえかな……。

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