下降

十二水明

下降

ポーーン。

【10階】

扉がひらく。

エレベーターに乗り込む。

「1」のボタンを押す。

閉ボタンを押す。

扉が閉まる。

下降が始まる。


ポーーン。

【9階】

扉が開く。

エレベーターホールには誰もいない。

閉ボタンを押したその時。

向こうから、いつも付きまとってくる彼女が走ってきた。

けれど間に合わない。

彼女が伸ばした左手が、閉まる扉に挟まれた。

左手だけがエレベーターの中にぼとりと落ちる。

絶叫。

血が床に流れ出す。

下降が始まる。

絶叫が遠ざかっていく。


ポーーン。

【8階】

扉が開く。

無傷の彼女がこちらに走ってくる。

閉ボタンを連打する。

彼女の胴が、閉まる扉に挟まれた。

彼女と目が合う。カッと見開かれた目。

脚をなくした身体がエレベーターの中にごとりと落ちる。

絶叫。

うつ伏せの彼女の顔は見えない。

血溜まりが広がっていく。

下降が始まる。

絶叫が響き続ける。


ポーーン。

【7階】

膝から先が、


ポーーン。

【6階】

頭が、


ポーーン。

【5階】

指4本が、


ポーーン。

【4階】

両腕と頭が、


ポーーン。

【3階】

つま先が、


ポーーン。

【2階】

足首より上が、


エレベーターの中に落ちる。


ポーーン。

【1階】

扉が開く。

閉ボタンを連打する。

彼女がこちらに走ってくる。

扉が閉まる前に、彼女はエレベーターに乗り込んだ。

扉の側に散らばる彼女たちをぐちゅりと踏みつけて。

彼女たちはすさまじい叫び声を上げる。

彼女の後ろで扉が閉まる。

彼女は血の飛び散った顔で幸せそうに嗤っている。

出られない。

下降が始まる。


このビルには、地下がないのに。




ポーーン。

【  】



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