番外編 隠文課:日恵田技官の記録
壊れたガラスペン
番外編 隠文課:日恵田技官の記録
私は文化芸術省 大臣官房 隠文課の所属だ。特別内部部局という制度が適応され、内部部局ながら、外局相当の権限を持つオカルトの司令塔をはたしている。文化芸術省 外局 宗務庁の宗教的儀式調査に私が派遣されるのも当然のことだろう。
千種融合教という宗教団体が存在する。当然宗務庁に認定された宗教団体なのだが、彼らの一部勢力が起こした儀式事件の調査に私は派遣されたのだった。
「日恵田技官。いかがですか、この現場は」
宗務庁職員にそう尋ねられる。いかが? さて、どうだろうか。
千種融合教はその名の通り、千の種を融合させることを目的とした宗教団体だ。千種とは教団内でも解釈が分かれるそうだ。記録を調べた限りでは、千種とは色々な種類の草を示すのだが、何を思ったか、他の物にも適応させているようだ。いわゆる種類が多いさまを示しているのだろう。
さて、現場を見てみようか。鉄錆と土の香りが舞う倉庫内。到底清潔感のある場所ではない。どこからか引っ張られてきたコードリールに接続された照明器具が現場を照らしていた。捕縛された教団員によれば、儀式そのものは不完全だったらしい。というか別の解釈をした教団員に通報されたらしい。それで不完全に終わったらしい。それはそれでよかったのだ。
千種融合教の捕縛された教団員は、千の霊魂を食らうことで儀式の完遂を試みたらしい。なぜ、なのか現場にて捕縛されている教団員に聞いてみた。
「ちょうど、千粒だったんだ。それに俺はそれが好きだったしな」
なんて身勝手なやつだろう。これでもし神格存在が権限していたら、おそらく我が省では対処できないだろう。他省庁に頼るのはすごく嫌なのだ。こんなんでも超常氏族の日恵田家出身なのだ。誇りはある。
歴史記録者の家系である我が一族はルーツを稗田に遡れるらしい。ルーツが本当かどうかはさておき、今でも記録者の一族であるのは本当だ。長子だったら当主を継げたのだろうが、私は三子だ。中途半端だ。それでも官僚になれたのは行幸だろう。
さて、現場に視点を戻そう。先程言ったコードリールには照明器具の他にもあるものが繋がれていた。そう、炊飯器だ。……炊飯器だ。なぜ、炊飯器なのか、私にはよくわからなかった。千種融合教に炊飯器は関係あっただろうか? いや、特にないはずだ。
そして先程から無視していた現実に目を向けよう。倉庫の中央には儀式的文言で囲まれた場が存在した。そしてその中央にある小さなテーブルには一つの器が置かれている。食べかけのそれは、美味しそうであった。照明器具に照らされ、紅色に輝くそれは美しさも感じるほどだ。
「俺はそれに千種の霊魂を入れたんだ。美味しそうだろう。好物なんだ」
教団員がそう語ったのも頷ける。美味しそうなのだ。食べかけでなければな。私は人の食べかけは食べれないのだ。うむ、今度食べに行こう。そう、小さなテーブルの上に置かれた器の中身を見て心に決めた。海鮮は新鮮な物に限るだろう。
後日、隠文課の文書にはある文言が記されていた。それはもう場違いな文言で、他職員からも何かの間違いではないかと問い返されたほどだ。
さて、食べに海鮮のお店に行こか。
*****
——文化芸術省 大臣官房 隠文課
——宗教的儀式記録 再調査不要案件
(以下一部略)
——対象宗教団体:千種融合教
——供物:いくら丼(証言によればいくら千粒。食すことで儀式成立を試みた)
——記録者:日恵田 大介 印
—宗務庁照会済
*****
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