オーパーツ〝石の服〟

碧美安紗奈

オーパーツ石の服

 とある化石が発見されたことで、世界中が大騒ぎになった。


 〝石の服〟である。


 そもそも人類がなぜ服を着るようになったかは厳密にはまだ謎という。猿由来の濃い体毛があったのなら寒さを凌ぐためではなさそうで、服を着るようになり体毛が薄くなったなら本末転倒だろうと。

 そんな中、約7万年から7万5千年前にインドネシアのスマトラ島にあるトバ山が大噴火したことによる気候変動での寒冷化を生き抜くため、衣服を身に付けるようになりやがて体毛を失ったとの仮説は有力視されていた。


 ところが今回発見された〝石の服〟はそれより遥か以前のものという。

 なにせ石製である。着たらまともに動けない着衣なぞなぜ作ったのか、現代人は頭を悩ませることになった。


 〝石の服〟はまさしく、ある種の新たなオーパーツと見なされうる異物だったのだ。



 ――さて、7万5千年より以前の出来事である。


 知的生命体となった人類の先祖に、こんなことを言い出す輩が現れた。わかりやくす現代語訳しよう。


「裸はエッチでけしからんと思います! 今後こんな感じのものを着て隠そう!!」


 そうして作られたモデルが〝石の服〟であった。


 まだ猿由来の濃い体毛に包まれていた人類のほとんどは、「何言ってんだこいつ?」と思った。


 しかし賛同する者たちもいた。


「確かに、傷つく人もいる。被害者に配慮すべきだ」


 反論する者もいた。


「我々は裸で生まれてくる、ここまで進化してもその性質は失わなかった。そんな被害は元来存在しない」


 7万5千年以上経ったあとも裸族もヌーディストも成り立っているし、人類は裸で生まれるのが自然なままで。


 とはいえ、〝石の服〟を作った人々は揺るがなかった。


「それは差別だ偏見だ、裸を嫌う人という多様性を認めるべきだ」


「だったら裸でいたい人も認めるべきだろう、それこそが多様性――」


「うるさい黙れ! これまでなかった考え方、我々の方が進歩的なのだ!!」


 かくして謎な声のでかさにより〝石の服〟を作った人々の主張は通り、やがて人類は普通の服も着るようになり、体毛が失われていったのが真相であった。

 後の寒冷化で、無駄な苦労をするはめになったのは言うまでもない。

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