第八話
……
学園のトップ・理事長という存在であると同時に。
早くに両親を亡くした、
その老人が、
鶴岡さんの『転校』という文字は、含まれていなかった。
「……あ、ウナ君。ちょっと待って」
「へ?」
「えっと、神戸におばさんがいるから。唯一は大袈裟」
す、すいません……訂正入ります。
というか……僕の心の中のセリフだったのに。
いったいどうやって聞いたんだろう?
「確かご両親がご健在のときは、あちらの私立小に通っていたのよね?」
三藤先輩が、そういうと。
「はい、事故のあとも。中学卒業までお世話になりました」
「……そう。すてきな女子校よね」
「
三藤先輩のいう『ステキ』は、きっと『制服』の話しだろう。
なんといっても、先輩は。
とことん、『制服』が好きなのだから。
絶対検索して、散々吟味した結果の……褒め言葉のはずだ。
「……
しまった、余分なことを考えたせいで。
例の僕の非常に不得手な、『恋愛のこと』。
それを僕が話せと、三藤先輩に決められてしまった……。
「……海原くん」
あぁ、もう!
しかたがない、覚悟を決めていうしかない!
「えっと、鶴岡さんは……十六歳を迎えるクリスマスに……」
「じゅ、じゅうろくっ!」
ふ、
「
「……
あの……藤峰先生。
キャラ、おかしくなってますよ?
「いい名付け?」
「はい、わたし。運命、さだまってるんで!」
鶴岡さんって、たまに思うんだけど。
自分で意味わかって、いってるのかな?
「……情報をまとめると。『そう』なるから、転校するということかしら?」
三藤先輩には、きっと口にしたくない言葉があって。
指示語で、それを回避したのだろう。
「おじいちゃんからは、そう聞かされて育ってきましたので」
鶴岡さんのセリフに、藤峰先生が。
己の置かれたズボラ三昧の境遇と待遇の差に。
おののいているのが、よくわかる。
「わたしも、最後は『レオ』と一緒になる覚悟だけどね……」
高尾先生。
実家の
それに、十六歳の女子高生と競うところじゃないですから。
静かにしませんか?
「……ねぇ
「だよね、
あぁ、先生たちがいると話しが長くなる……。
「でね、鶴岡さん。その人生設計なんだけどね……」
「……全部嘘だって、知ってるよ?」
わたしがそう答えたら。
みんなの目が点になって、思わず笑ってしまった。
パパがね、わたしにいつか『変な虫』がついたらって心配して。
あと、高校まで続く女子校が。
もし嫌になったときのためにって、ね。
『許嫁がいるから、恋人の心配はしなくていい』
『例えどこか別のところにいても、十六歳のクリスマスには会えるから』
そうやって、小さなわたしに話していて。
訂正するチャンスのないまま、事故にあってしまっただけ。
……おじいちゃんは。きっとなかなか、いいだせなかったんだよね?
ところが、もうその時期に近づきすぎてしまったから。
先生とか、ウナ君たちに頼ったんだね……。
「おじいちゃんだもん、恥ずかしがり屋さんだしねぇ〜」
なぜだろう、おじいちゃんに。
どうしてみんなに話してしまったのとか。
そんな文句を、いう気にはならない。
本当はすっごくプライベートな、話しのはずなのに。
嫌な気持ちというよりは、むしろ。
……わたし、とっても軽くなれた気がする。
「お父さまと、お母さまのことが大切で……」
つ、月子ちゃん?
「自分の口で『違う』と伝えるのを、避けたかったのじゃないかしら?」
……なにそれ。
おじいちゃんって、なんだか子供みたい。
「そんなの、あれは嘘って。ひとこといえば済むのにね〜」
少しだけ、目元が潤んできたから。
わたしは笑って終わろうとしたのに。
もう、ウナ君ったら……。
「嘘じゃなくて、
あぁ、余分なこと。いってくれちゃうから……。
どうしよう。
一気に、涙があふれてきて……。
「な、夏緑!」
ちょっとだけ、ぎこちないけれど。
慌てて月子ちゃんが、ギュッとわたしを抱きしめてくれた。
それから、先生たちも加わって。
あったかい輪に、包まれていたら……。
「な、夏緑〜!」
「転校なんて、な・し!」
「許嫁も、いないよっ!」
「わたしたちが、いるからね!」
うわぁ。
暑い、痛い、重い、く、苦しい……。
……みんなが、講堂の機器室まで。
ゼェゼェいいながら、走ってきた。
……そうそう。
なぜ、みんなが飛んできたかといえば。
講堂の機器室の、『秘密の扉』。
まぁ要するに、わたしが放送室直通の電話の受話器を。
たまたま外しちゃったらしくて。
みんなに、みんな聞かれてちゃいました!
……こうして、鶴岡さんの『大切な件』については。
一件落着、したようで。
「無事に解決できて、よかったです」
みんなで放送室に戻りながら。
僕が隣の三藤先輩に、感想を述べると。
「そうね……」
先輩は、一瞬だけ立ち止まると。
「親が知らなくても、娘は意外と気がついたりするものよ」
そういって、僕を見た。
「……あの。それっていわゆる『女の勘』とかいう、やつですか?」
「海原くん」
「はい」
「いいこというのが『たま』で。基本は鈍感なのよね……」
「へっ?」
僕がどういうことか、聞き直したくて。
三藤先輩に、声をかけようとして。
でも、そのとき。
「あっ! 放送部っ!」
ずっとずっと、元気な声が。
……勢いよく、僕たちに飛んできた。
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