第39話 死にゲー廃人、大戦前

 翌日、俺は昼からエクリプスにログインした。

 ちなみに学校は今日から夏休みである。

 ならどうして昼からなのかと思うかもしれない。

 それはうちの高校が何故か夏休みなのに、これから二週間も補習授業を行うためだ。

 夏休みが一か月と少しある中、前半の二週間と後半の一週間は補習授業がある。

 実質の全休は一週間だけしかないのだ。

 もちろん補習授業は強制参加ではない。

 自宅で勉強した方が効率がいいという学生は参加しない。

 ただ俺は自宅で勉強するようなタイプではない。

 自宅にいれば間違いなく死にゲーやエクリプスを触ってしまう。

 なので俺は仕方なく午前中は補習授業に参加することにしたのだ。


 エクリプスにログインした途端、ミーミが顔に飛びついてきた。


「ナギ様、おかえりなさいにゃ!」

「うぐっ」


 顔に毛が当たってかゆいので俺はどうにか顔をミーミを引きはがす。

 そしてゆっくりとミーミを地面に下した。


「傲慢の大罪と戦いに行ってから帰ってこないから心配したにゃ!」

「あー、確かにミーミに声をかけてからログアウトすればよかったな。ごめんな」


 傲慢の大罪と戦う前、ミーミは黒霧の森の近くで待機させていた。

 大罪のと戦いで何があるか分からない。

 それに黒霧で視界がないステージなので、ステージ外に置いておいた方が安心だと考えた。

 案内役AIに、HPのようなステータスがあるのかは分からないが、それでもあまり危険には晒したくはない。


「それで傲慢の大罪はどうだったにゃ?」

「強かったよ。でも勝てないことは無いと思う」


 今の俺がロキの一つ目の試練で現れた焔竜と戦って勝てるかと言われたら否だ。

 死にゲーと違ってレベル差によって絶対不可能の領域が存在する。

 死にゲーであればどんな強敵にもワンチャンスが存在するがMMOには存在しない。

 数千回と死んで行動パターンとモーションを暗記し、予測できるようになって、数百時間かけてダメージを与えれば勝てるかもしれないが、それは現実的ではない。

 そもそも攻撃が速すぎて見えないような相手に勝つのは難しい。

 ロキの試練も、本来はもっとレベルを上げてから挑むものだったのだろう。


 しかし傲慢の大罪ことヒュブリスは違う。

 俺でも勝てるギリギリのラインの敵だったように感じた。

 おそらく他の七つの大罪には俺は全く手も足も出ないだろう。

 けれど彼に関しては能力の大きな特徴として視界が全くないことが上げられる。

 その上で他の大罪と同じように強力なステータスであれば理不尽にもほどがある。

 おそらく三分ほど戦闘をした感じのステータスは百レベル前後。

 焔竜よりレベルが低いのは確かだ。


 要するに視界の弱点だけ克服すれば勝ち目はあるということ。

 だからこそ他のプレイヤーは霧を晴らすための前提クエストをこなそうとするのだろうが、俺にはそんな時間はない。

 視界を戻す方法ではなく、俺が視界がない状態に慣れた方が早いと思った。

 そうして俺はこの一週間、死にゲーで視界がない状態での訓練をこなしてきた。


「今から傲慢の奴を倒しに行くぞ」

「にゃ!? また行くにゃ!? てっきり傲慢の大罪にやられて珍しくへこんじゃってログインしてないと思ってたにゃ!」

「いやいや、俺がへこむことなんてないぞ? 負けたら余計に燃える性格だし」


 俺はミーミの言葉に笑いながらステータス画面を開く。


【名前】ナギ

【種族】人間(不死の開拓者)

【ジョブ】流浪人、愚者の使徒

【レベル】35

【HP】2500/2500

【MP】150/ 150

【筋力】17

【技量】30

【俊敏】16

【持久力】16

【耐久力】6

【信仰力】11

【運】15

【ステータスポイント+78】


 今の俺のステータスはこんな感じだ。

 当分、ステータスポイントをいじっていなかったのでかなりポイントが余っている。


「まぁステータスの振り方は技量に多めに振るか」


 そう言って俺は適当にステータスにポイントを振っていた。


【名前】ナギ

【種族】人間(不死の開拓者)

【ジョブ】流浪人、愚者の使徒

【レベル】35

【HP】2500/2500

【MP】150/ 150

【筋力】25

【技量】60

【俊敏】36

【持久力】36

【耐久力】6

【信仰力】11

【運】15

【ステータスポイント+0】


「まぁこんな感じかな」


 技量に+30、俊敏と持久力に+20ずつ振った。

 余ったポイントは筋力に振ったので+8である。


 とりあえず俺がヒュブリスに反応できるのは前回の戦闘で経験している。

 二段階目などの強化バージョンが存在するかもしれないが、特段必要ではない。

 それなら俺はとにかく火力を出すために技量に振った方が良いと考えた。

 耐久力は信仰力、運などは別に必要ないと思っている。


「まぁチャンスは最初の一回だな」


 別に死にゲーのように何度も挑むことは出来るが、エクリプスはデスペナルティが存在する。


 【死亡時ペナルティ】

・装備中の武具耐久度に大幅なダメージ

・2時間ステータスが10%低下(最大50%スタック)

・所持アイテムの一部をその場にドロップ


 特に二つ目が面倒だ。

 五回死ぬとステータスの半分の力しか出ない。

 しかもこれは基本ステータスではなく、装備などの合計ステータスであるため愚者フールの指輪の効果も半減する。

 

 それに視界がない状態での戦闘は通常時の戦闘に比べてかなりの集中力と精神力を使う。

 挑めば挑むほどミスや思考力の低下などが見られ、パフォーマンスが落ちるだろう。

 

 死にゲーをプレイしたことがある人なら分かるかもしれないが、死にゲーは一番最初の戦闘が一番長く生き残れたりする。

 そして何十回も戦って勝てずに諦め、次の日に再び戦うと一発で勝てたりする。

 その背景には、この集中力の低下などが存在すると俺は思っている。


 それから俺はミーミを連れて再び黒霧の森の入口に向かった。

 すると昼時だからか前回のように待機しているプレイヤーは見当たらなかった。


 俺は軽く装備を確認してから口にする。

 

「じゃあ、そろそろ行きますか」

「しょ、正直、案内役としては大罪と戦うのはお勧めできないにゃ」


 そんな俺の横でミーミは表情を一瞬だけ曇らせて言った。

 それもそうだろう。

 案内役として、こうして無謀な挑戦を続けているプレイヤーを褒めることは出来ない。

 けれどミーミはぎゅっと小さな拳を握り締める。


「でも! ナギ様ならもしかしたら奇跡を起こせるかもって思ってるにゃ! だから案内役としてじゃなくてミーミとして応援してるにゃ!」


 俺はそんなミーミの応援に小さく笑みが漏れる。

 俺は典型的なプレイ進行ではないため案内役のミーミにはかなり迷惑をかけているだろう。

 それでも初めてのMMOで、こうして相談に乗ってくれたり話し相手になってくれるのは俺にとってかなり力になっていた。

 だからこそ俺はそんな彼女に胸を張って答える。


「おう! 任せとけ! ミーミを世界で初めて大罪を倒したプレイヤーの相棒にしてやるから!」

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