第38話 死にゲー廃人、決意する
「甘かったな。弟子よ。これがゲーム理解度の差だ」
「――っ!?」
そう言って俺は余っている方の手で双剣を握り直し、ケイルの頭をぶち抜いた。
その瞬間、フルだったケイルのHPゲージが一瞬でゼロになる。
するとケイルの身体が消失し、目の前にログが表示される。
【YOUWIN】
俺の損傷していた身体も自動で回復し、再び目の前に生き返ったケイルが現れる。
「僕の攻撃も、僕を確実に殺すためにわざと食らったんですよね?」
「そうだ。刀でどれくらい斬られたら死ぬかは知ってるからな」
「……っ、あはは、やっぱり師匠には勝てませんね」
再び姿を現したケイルは、乾いた笑いをしてから悔しそうに息を吐いた。
俺は双剣を納めてバンダナを外す。
視界が戻るとケイルの顔が映る。
彼は悔しさを滲ませながらも、どこか誇りを宿した目をしていた。
「……今回、目隠しはしてましたけど本気で戦ってくれましたよね?」
「当たり前だ。師弟対決で手を抜くなんて俺の流儀じゃない」
「なら嬉しいです」
「嬉しい?」
「はい――やっと師匠に一撃、通せたので」
ケイルは少し不敵に笑ってみせた。
確かに俺はケイルに初めて一撃を食らった。
俺の肩にはまだ焼けるような痛みが少し残っている。
それが作戦で、わざとだったとはいえ、一撃食らったという事実には変わりない。
kdkdd:ケイルも負けたけど凄かったなー
おりあ:全部パリィするとか化けもんでしょ……
っっっ:けど、そんなケイルすら超えるのが廃人なんだよな
カナディ:相手の攻撃を予測してダメージまで考えたうえで、わざと食らうとか普通やろうとしても無理だよな
asdf:攻撃食らうの怖いしな
llllllll:発想が天才すぎる
俺たちの戦闘にコメント欄もかなり盛り上がっていた。
「師匠は本気でヒュブリスを倒す気なんですよね?」
「ヒュブリスを知ってるのか?」
「はい、僕もそこそこエクリプスはやり込んでるので」
ケイルからそんな言葉を聞いて俺は少し驚いてしまう。
彼も俺と同じように死にゲーマーだと思っていたため、大人気MMOをプレイしているのが少し意外だった。
しかも傲慢の大罪は知っていても、ヒュブリスという名はあまり知られていないはずだ。
その名を知っているということは一度、彼と戦闘したプレイヤーか、もしくはかなりエクリプスに詳しいプレイヤーであるということ
「意外だな。ケイルもあのゲームをしてるなんて」
「それは僕のセリフですよ。絶対に師匠は死にゲー以外やらないと思ってましたから」
そんなケイルの言葉にコメント欄のリスナーたちも同調する。
fhhhh:それな。ここ数年死にゲーしかしてない配信者が他ゲーするとか想像できない
ruruu:廃人が大衆向けゲームなんかしたら一瞬でランカーになれるんじゃね?
ルーグ:廃人のエクリプスの配信も見たいわ
するとケイルは俺の耳元で配信は聞こえないぐらいの声量で呟く。
「もしかしてレベル1で彷徨う騎士を倒したのって師匠ですか?」
「え? そうだけど、何で知ってるんだ?」
「少し前に掲示板で話題になってましたよ。その時は師匠がエクリプスを始めるわけがないと思ってましたけど、まさか本当に師匠だったなんて驚きました」
確かにケイルは廃人という活動名ではなく、ナギというゲーム名を知っている。
一王の時も配信外でやっていたためナギという名前だった。
しかし名前が同じプレイヤーなんていくらでもいる。
それで気づかれるのは、逆に怖くなってくる。
「僕もヒュブリスとは何回か戦いました」
「へぇ……強かっただろ?」
「はい、手も足も出ませんでした。本当はもっと戦ってみたかったんですけど、部下から今は攻略に集中しろと言われてしまって……」
ケイルはとても悔しそうに語った。
部下という単語が少し気になったのだが、ケイルはそのまま続ける。
「ですが師匠なら世界で初めて大罪を討伐してくれるって信じてます」
「ははっ、ケイルが先に倒してくれてもいいんだぞ?」
「僕はこれから攻略に時間を割かないといけないので、七つの大罪は当分お預けになりそうです」
俺が冗談めかしく言うとケイルは微笑みながら答えた。
これから攻略に時間を割かなければならない、それは恐らくバージョン3で更新される三つ目の大陸のことを言っているのだろう。
ということは志穂と同様にケイルは最前線のプレイヤーだということ。
弟子の彼は今の俺では到底敵わない位置にいるのだ。
であれば師匠の俺も負けるわけにはいかない。
「分かった。なら弟子の好意に甘えてヒュブリスは俺が倒しておく」
「はい、楽しみにしてます」
するとケイルはログアウトの準備を始めた。
「では僕はこれで失礼しますね。師匠と久しぶりに戦えて楽しかったです」
「こちらこそありがとな。良い練習になったよ」
「いえいえ。リスナーの皆さんも長い間お邪魔してすみませんでした」
そう言ってケイルは俺の世界から消えていった。
俺はそんなケイルの消えた背中を見つめながら心の中で誓った。
(絶対にヒュブリスは俺が倒す)
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