第19話 死にゲー廃人、当たって砕ける

 帰宅した俺は早速エクリプスにログインした。

 視界が明るくなると、そこは見覚えのある場所だった。


「ここ、洞窟のダンジョンの入口か」


 そういえば俺はダンジョンの中でログアウトしたんだっけ。

 どうやら強制的に入口に戻されたようだ。


「にゃー! ナギ様お帰りなさいにゃ!」


 少し視線を落とすとそこにはミーミが現れる。

 案内用のNPCだからか俺と同時にこの世界にログインするような仕組みになっているようだ。


「今日はどんな予定にゃ?」

「んーとね。とりあえずレベルを99まで爆速で上げたいんだけど」

「……にゃに?」


 俺が今の目標をさらっと口にするとミーミが口を開けて固まる。


「とりあえず昨日、ヴェノムサーペントを倒したから15レベル。あと84レベルだな」

「にゃにゃ!? 本気で99レベルまで上げる気にゃ!?」

「おう、友達が待ってるんだ」


 正直、かなり悩んだ。

 攻略サイトを見るか見ないかに関して。

 見てしまえば効率のいいレベリング方法やおすすめの狩り場などの正解が得られるだろう。

 ただ、同時に考えた。

 それが本当に正解なのかということを。


「ミーミ、俺が攻略サイトを見て本気でレベリングして一か月で99レベルまで行けると思うか?」

「……本気で言ってるにゃ?」

「あぁ、本気」


 俺が真剣な眼差しをミーミに向けるとミーミは一旦黙り込む。

 そして少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「流石のナギ様でも無理にゃ」

「……やっぱりそうか」


 そうだろうなとは薄々感じ取っていた。

 俺の変態度と実力をある何年も知っている志穂が三カ月はかかると言った。

 であれば俺がどれだけ頑張っても二か月ぐらいになるということだ。


 するとミーミが俺をフォローするように続ける。 


「別に勝てないからって意味じゃないにゃ。今までのナギ様を見てきたらどんな相手にでも勝てるかもって思ってるにゃ。けど問題なのは時間にゃ」

「時間?」

「ナギ様はプレイする時間が夕方から夜までと限られてるにゃ。そしてその時間でこの大陸をクリアし、第二の大陸シーヘイムまで行くのは時間的に不可能にゃ」


 一番の問題はこの世界のあまりの広大さにあった。

 一つ目の大陸エルベスタで鍛えられるおおよそのレベルが50前後まで。

 二つ目の大陸シーヘイムからは99までとなっている。

 それは敵などのモンスターの強さがそう設定されているためだ。

 よって俺は二つ目の大陸まで速攻で向かわなければならないが、一か月ではたどり着けたとしてもそこからレベリングまでが間に合わないというわけである。


「そんなに遠いんだな」

「メインストーリーとは別にゲーム内のお金を用意したうえで専用のクエストもクリアしないと進めないようになってるにゃ。そしてそれは大陸移動以外にも同じようなクエストが何か所もあるにゃ」


 要するにどれだけ頑張ったところで距離的にもクエストを達成するための時間なども何もかも足りないということだ。

 それなら俺が取る方法は一つしかない。


「じゃ、とりあえず適当に進めていくか!」

「にゃ!?」

「正解がないなら正解を作るしかないだろ? とりあえず当たって砕けろだ」


 当たって砕けろ。俺が一番好きな言葉だ。

 死にゲーも相手の行動パターンを死んで覚える。それと同じだ。


「ちなみにミーミ。俺は夕方からしかログインしないって言ってたよな?」

「にゃ。登録情報的に学生だと思ったにゃが違ったにゃ?」

「合ってるけど一つ見落としてたな。今日は何月何日だ?」

「7月20日にゃ。それがどうしたにゃ?」

「高校生は一週間後から夏休みだ」


 にやっと口角を上げる俺に目を丸くするミーミ。

 その後、にゃーにゃー騒ぐミーミを連れて俺は第二の街を目指して走り始める。



 洞窟のダンジョンを後にし、森を抜けると白い霧が立ちこめる平原に出た。

 特別なフィールドだろうか。普通の霧に比べて明らかに濃い気がする。


「……ミーミ。なんかここ異様に霧が濃くないか?」

「にゃ? 確かにそう言われてみれば――」


 ミーミがそう言いかけた瞬間だった。

 世界が一瞬で純白に染まる。


「な、なんだこれ……」


 隣にいたはずのミーミの姿も声も聞こえない真っ白な世界。

 手を伸ばそうとするが体が動かない。

 真っ白な無機質な世界に放り込まれたような感覚に陥った。


 バグだろうか、それとも通信が途切れたのだろうか。

 そんなことを考えていると、俺の視界の中心に黒い“何か”が浮かび上がる。

 それは、人のようで人でない。顔のないシルエット。

 頭上には一枚のタロットカードのようなものが浮かび、そこには一文字とだけ記されていた。


『――ようやく会えたな。使徒候補よ』


 無機質な声。

 だが、どこか笑っているようにも聞こえた。

 それと同時に確信する。これはバグなどではなくゲーム上の進行なのだと。


『選ばれし愚者に問おう。世界の理を壊す覚悟はあるか?』


 何かが俺の心を試すように問いかけてくる。

 身体は動かない。ミーミもいない。

 でも、不思議と怖くはなかった。


「あぁ。何が来ようと何度死のうと全て壊してやるよ」


 だからこそ俺は笑って答えてやった。


『汝の覚悟を見させてもらった。ここに我との契約を結ばん』


 その瞬間、指輪が砕けるように漆黒の輝きを放つ。

 視界が真白に弾け、そして耳元に冷たい電子音が響いた。


 ――プレイヤーレベル15レベル以上を確認。

 ――条件を達成。

 ――ユニーククエスト【アルカナの使徒】が発生しました。

 ――このクエストは他プレイヤーに共有されません。

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