第18話 死にゲー廃人、目標を決める
翌日。俺はいつも通り眠気を堪えながら高校へと通学した。
廊下を抜け、教室に入るといつものように志穂が声をかけてくる。
「おはよ、凪。今日も死んだ顔してるね」
彼女は俺の顔を覗き込みながら笑った。
机に突っ伏したい欲求を抑え、俺はなんとか椅子に腰を下ろす。
「今度はどんな死にゲーを始めたの?」
俺の寝不足のような表情を見て、いつものように死にゲーを夜遅くまでプレイしていたと思ったのだろう。
「いや、エクリプスを始めたら意外と面白くて」
「エクリプスかぁ……ってエクリプスぅ!?」
志穂は大きな驚いた声を上げたが、すぐに教室だと気づき両手で自分の口を押える。
「え、本気で言ってるの?」
「本気も何も、昨日の放課後にいつものゲームショップでエクリプス買って、早速プレイしてみたんだよ」
「うそ……あの死にゲー廃人の凪が?」
信じられないと言いたげに志穂は目を丸くする。
そんな珍獣を見るような目で見ないでほしいものだ。
「一応、六時間ぐらいは遊んでみたけど死にゲー要素もあってかなり面白いな」
「え? 死にゲー要素なんて序盤のエクリプスにはないはずだけど……」
「彷徨う騎士がいるだろ? あいつはなかなか良い敵だった」
「へ?」
固まってしまった志穂に俺は少し興奮気味に語る。
「序盤には絶対に勝てない圧倒的レベルパワーのモンスター。けどその分、理不尽な攻撃はないし、パリィ無しでも確反だけ取って安全行動すればどうにか勝てる。微かな希望も用意した素晴らしい初心者殺しの敵だったな」
うんうんと俺は自分で頷きながら昨日の戦闘を思い出す。
死にゲーでもなかなか味わえない臨場感のある戦闘だった。
あれほど手に汗握ったのは、とある死にゲーでレベル1縛り全ボス攻略をしたときだろうか。
「……ちょっと待って。凪って昨日始めたんだよね?」
「そうだけど?」
「彷徨う騎士に勝ったの?」
志穂は机に手を置き、身を乗り出してきた。
普段はおっとりした彼女が、ここまで動揺しているのは初めて見た気がする。
「まぁ、ギリギリだけどな」
「……ありえない」
ぽつりと呟いた彼女の顔には、信じられないものを見たという色が浮かんでいる。
「なにが?」
「だって彷徨う騎士って、初心者が装備整えて、パーティー組んで、ある程度やり込んでから挑む中ボスみたいな存在だよ?」
ミーミの反応を見てれば普通でないことは想像出来た。
志穂が驚くのも納得出来る。
まぁ倒せたとはいえ、わざわざあんなスリルのある戦闘を二時間以上もやりたがるプレイヤーはいないだろう。
「……分かってたことだけど凪ってやっぱり変態ゲーマーね」
志穂は眉間を指で押さえるようにして頭を抱える。
「ちなみに何レベルで倒したの? 凪のことだから10レベルとか?」
「ん? 1レベル」
「へぇ、1レベル……1レベルってことは最初のレベルってことだよね……」
どこかの構文みたいなことを口にする志穂。
「凪じゃなかったら間違いなく嘘だと思うけど、凪なんだよねぇ……半年ぐらいかかると思ってたけど、これだと三か月もあれば凪と一緒に遊べるかも……」
「ん? 俺は今日からでもマルチで志穂と遊ぶもんだと思ってたけど」
俺の予定では今日、志穂にエクリプスを始めたことを話して一緒に遊ぶ予定だった。
俺も分からないことが多いため志穂と一緒にプレイしたら何倍も効率が上がるだろう。
しかし、志穂はジト目を向けてくる。
「私がどれだけ凪と一緒に過ごしてると思ってるの? 凪が高レベルプレイヤーにキャリーされるのが嫌いなことぐらい分かってるよ」
「うぐっ……」
俺は図星をつかれてしまい言葉を詰まらせてしまう。
確かに俺はキャリーされるのは好きではない。
出来るなら初見を大事にしたい。苦しんで死んだうえで何度も挑みたい。
「高レベルって、そういや志穂って何レベルなんだ?」
「99レベル」
「た、高くね?」
昨日ミーミに聞いた話だと、99レベルが今の最高レベルらしい。
ということは既に限界レベルまで志穂はやり込んでいるということだ。
「まぁリリース日からやりこんでるからね。それに今はもう上位勢はみんなレベルはカンストしてるよ?」
「そうなのか……」
「まぁ、もうすぐレベル上限も150まで引き上げられると思うけど」
これまでエクリプスは半年で大陸が一つ増え、レベル上限が50上がったらしい。
現在、ちょうど1周年なのでもうすぐ150レベルになり、大陸が広がるのではないかと話題になっているようだ。
「ならとりあえず一旦はソロでレベル上げするか」
志穂に追いつくためには最低でも90レベルまでは上げたい。
現在、ヴェノムサーペントを討伐したおかげでレベルは15。
まだまだ道のりは長そうだ。
「エクリプスってメインストーリーはあるのか?」
「あるよー。ただエクリプスはメインストーリーを無理に進める必要はないけどね」
「どういういことだ?」
「エクリプスはサブとかサイドとかNPCのクエストとか他のクエストが豊富でそっちでレベル上げたり開拓してったりするプレイヤーも多いのよ。だからメインストーリーは義務じゃなくなってるんだ」
「へぇ……珍しいな」
「凪の性格的にサイドクエストをどんどん進めていく方がいいかもね。メインだと敵のレベルも優しいし一気にレベルも上がらないし」
俺が今考えていたことを志穂が口にしてくれた。
俺的にはメインでゆっくりレベル上げするよりは、絶対に勝てないような強敵と戦ってレベルを上げる方が性に合っている。
「よし、じゃあ俺も目標を決めた」
「目標?」
「一か月で99レベルにする」
「ふふっ、流石にそれは凪でも無理だよ。私だって九カ月ぐらいで99レベルだよ?」
「まぁ見とけって。昨日、色々と感覚も掴めたし」
そんな話をしていると教室に担任の教師が入ってくる。
席に着け―、との合図で志穂は自分の席に戻っていった。
(早く、エクリプスの世界に戻って戦いたいな)
俺はそんなことを考えながら授業を受けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます