第8話 死にゲー廃人、報酬を確認する
「早速、報酬確認してみますかぁ!」
俺は【彷徨う騎士】を討伐したことで得られた報酬のログを確認する。
【報酬】
・
「あれ? 経験値はどこで貰えるんだ?」
何度ログを見直しても、報酬は指輪一つだけだった。
他に何のドロップもなければ金も入っていない。
すると遠くで見守っていたミーミが俺のところまで駆け足て近づいてくる。
「な、ナギ様あああああ!」
「うわっ、どうしたミーミ!?」
ミーミは涙目を浮かべながら俺の腹めがけて勢いよく突撃してきた。
思わぬ衝撃にうめき声を上げそうになってしまうが堪える。
ミーミは俺の胸元に顔を埋めるようにして、肩を小刻みに震わせていた。
その瞳は大粒の涙で濡れていて、言葉を出すのに必死だ。
「す、すごいですナギ様ぁぁ……! あ、あんな化け物を一人で倒すなんて……本当に信じられないにゃ……!」
「まぁこれまで死にゲーで何万もの死を乗り越えてきたからな」
「何万!? あのナギ様の神業の裏にはそんなにお辛い過去が……」
「あっ、いや、辛かったってわけじゃ……」
ただ死にゲーで死にまくってきただけなのだが、ミーミには少し違うニュアンスに聞こえてしまったらしい。
今のように心配してくれていたミーミもそうだが、俺はこれまで定型文しか話さないNPCとばかり話してきたため、まるで生きているかのようなNPCと話すのはどこか新鮮だった。
「そういえばミーミ、モンスターを倒したのに経験値が入ってないんだがどういうことだ?」
「にゃ? しっかり入ってるにゃ」
「ん?」
「ステータス画面を確認してみるにゃ!」
俺はミーミの指示通り、ステータス画面を確認してみる。
「えっと……レベル9?」
「そうにゃ! レベル19の彷徨う騎士を倒したことでめちゃくちゃ経験値が入ったにゃ!」
確かにミーミの言う通り、俺のレベルは1から9へと表示が変わっていた。
ただ、俺はその現象に違和感しか覚えなかった。
「篝火……いや、セーブポイントじゃなくてもレベルは上げれるのか?」
「戦闘が終われば自動で経験値の清算が行われるにゃ」
「な、なら、次のセーブポイントに行くまでに殺されて、今まで倒した敵の経験値がロストすることもないのか!?」
「エクリプスは経験値が実体化することなんてないにゃ。ってかそれどんな鬼畜ゲーにゃ?」
「か、神ゲーなのかこれは…?」
何万と溜めた経験値を敵に倒されてロストするあの絶望感。
そしてそのロストした経験値を取りに行こうとすると、今度は向かう道中で別の敵に殺され、経験値が消滅するあの虚無感。
バグでロストした経験値が取りに行けない場所に実体化してしまったあの空虚感。
エクリプス・リンクではそんな思いをもうしなくていいのだ。
まぁエクリプスには死亡ペナルティとしてアイテムや装備のドロップがある。
そのためレアアイテムなど持っている時は、同じような緊張感などは味わえるだろうが、それでも経験値の心配をしなくていいのはとてもありがたい。
「ドロップした指輪を見てみるか」
【
効果:装備者の総重量が軽いほど、攻撃力が上昇する。
説明:己の無知を恥じぬ者、愚者と呼ばれし者こそ真理に至る。
重きを背負わず、空虚を抱いて歩む時、剣は鋭さを増すだろう。
「へぇ。重量が軽いほど攻撃力アップか」
ログに浮かぶ説明文を読みながら、俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
ガチャガチャと鎧を重ね着して防御に徹するより、最小限の軽装で回避に賭ける。ずっと俺が死にゲーで培ってきた戦い方だ。
この指輪さえあれば、そのスタイルを更に極められる――そう確信した瞬間。
「に、にゃにゃにゃにゃ!?」
隣でミーミが、奇妙な声を上げながら飛び上がった。
ミーミは咄嗟に自分の口を押え、小声で俺に囁いてくる、
「そ、その指輪、ユニークドロップにゃ……!」
「ユニークドロップ? なんだそれ?」
「めちゃくちゃ貴重ってことにゃ! まだ発見の前例がないアイテムや装備をエクリプスではそう呼んでるにゃ!」
俺はもう一度指輪の詳細について確認する。
【
レアリティ:ユニーク
確かにレアリティの欄にはユニークと記されていた。
とりあえずレアリティのシステムについて俺は知らないので、ヘルプを開く。
するとそこにはこのように記されていた。
【レアリティ区分】
・ノーマル……一般的に入手できる装備やアイテム。
・レア……比較的珍しい装備やアイテム。特殊な効果を持つことが多い。
・エピック……希少価値の高い装備やアイテム。強力な効果や固有スキルを秘める。
・レジェンダリー……伝説級の装備やアイテム。世界に名を刻む存在が残した逸品。
【ユニーク】
※上記の区分とは別枠に存在するオリジナルのアイテム。
発見報告例は極めて少なく、条件不明。
「……なるほどな。ユニークは四段階のさらに外側か」
俺はヘルプを閉じ、改めて指輪を見下ろす。
ただの軽量装備特化アイテムかと思いきや、とんでもないレアものらしい。
「ユニークなんて普通のプレイヤーは一生に一度見れるかどうかにゃ……! ナギ様はやっぱり只者じゃないにゃ!」
ミーミは信じられないものを見るように俺を見上げてくる。
「でも彷徨う騎士からドロップしたんだぞ? 俺は時間かかったけど、高レベルのプレイヤーならすぐに倒せるモンスターだよな?」
彷徨う騎士はレアモンスターというわけではない。
それこそミーミの話ではレベルがあれが誰でも倒せるモンスターらしい。
俺以外にも彷徨う騎士を倒したプレイヤーは何千といるだろう。
なのにユニークというのはどういうことだろうか?
するとミーミも困ったように答える。
「彷徨う騎士のこれまで確認されてるドロップアイテムは【古びた剣】と【錆びた鎧】の二つだけにゃ……【愚者の指輪】なんて一度も記録がないにゃ……」
「本当に俺が初めてってことか……」
となると俺が何かしらの隠し条件を達成したと考えるのが自然だろう。
レベル1で倒す? それとも一撃も食らわずに討伐? カウンターのみでクリア?
「……まぁ今考えたところで分からないよな。拾い物は素直に使わせてもらおう」
俺は愚者の指輪を指に嵌める。
するとミーミが再び慌てた様子で、小さい声量で叫ぶ。
「そ、その指輪、フリーマーケットに売れば目が飛び出るくらい高くなると思うにゃ! ナギ様、街で競売に出したら一生遊んで暮らせるかもにゃ……?」
「俺は金持ちになりたいわけじゃなくて強敵と戦いたいだけだからな。強い装備は自分で使うよ」
即答すると、ミーミは呆れたように笑いながらもしっぽを揺らす。
まるでいつもの見慣れている志穂のよう対応に俺も笑みが漏れる。
「じゃあ、次は近くの強敵でも探すにゃ?」
「……いや、その前に一度最初の街に行こうかな。セーブポイントも更新したいし」
「にゃるほど! 【ファスト】ならアイテムの補給もできるし、装備の整備や情報収集も必要にゃ!」
アルバスという最初のNPCやミーミの反応から見るに、彷徨う騎士はこのエリアで最強のモンスター。本来なら初心者殺し用の敵対しては駄目なモンスターだ。
彷徨う騎士以上の強敵はここ周辺では探してもすぐには会えないだろう。
それなら情報収集や装備の確認も兼ねて、近くにある【ファスト】と呼ばれる最初の街に行った方が良いと考えた。
ふと視線を横に向けると、先ほどの戦いを遠巻きに見ていたプレイヤーたちがまだ集まっている。
「あいつら、放っておいていいのかな?」
「無視でいいにゃ。どうせ噂好きな野次馬にゃ」
「なら行くか」
「にゃ!」
俺は平原を真っ直ぐに歩き出す。
ミーミが小走りで俺の隣に並び、ファストへの道を案内してくれた。
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