放課後
凪
二文字のひらがな
くだらない話題をそれぞれ持ち寄ることが許されるのは
空の色が橙色に染まる下校の時間である。
ふと薫子はこんなことを呟いた。
「なんでもひらがなに変換すると可愛くならない?それに二文字との相性がめっちゃいいような気がする。」
「確かに。」と相槌を打つ恵。
「“恵のことを、“めぐ“って呼んだり、ラインでも“めぐ“で打つからね。めぐも“薫子“じゃなくて“かお“って呼んでくれるじゃん。」
「だって“薫子“は文字数多いから、二文字の方が楽。」
「出た!どこまでもナマケモノになってしまう“めぐ“だっ!」と薫子が茶化す。
「分かってないなあー“かお“は。ナマケモノだってやる気になるとめっちゃ早いのだから。ってことで、あっちにある店まで勝負しようよ。」恵はクラウチングスタートの姿勢になり、走り出した。
「えーっ!ちょっと待ってよ。」薫子は、恵の背中を追いかける。
手動ドアの前に立っている二人は、肩の上下運動がおさまるのを待っていた。
「ほれみろ。私は常にナマケモノでないんだ。」
「参りました。恵殿。」
「グミを買おうではないか。」恵が言った。
「この前、たくさん買い込んでなかったけ?」薫子が疑問を呈す。
「今週は自習時間が多かったから、全部食べちゃった。」
「最後の晩餐は絶対にグミにするって言ってたね。めぐは。」
「もちろんだよ。いつ死んでも良いように、常に食べておきたいんだ。」
二人の知らぬ間に自転車の影が近づく。
「そこの二人、どいて。ジャマ。」男子3人組の一人が苛立ちを含んだ声を刺す。
「ごめん。ごめん。」恵は軽く流し、傍に避けた。
2人目は軽く会釈をし、3人目は両手を合わせて律儀に謝る。
「ごめんな。あいつ先輩に怒られて気が立ってるんだよ。」
「いいの。いいの。こっちだって悪いんだから。」恵も両手を合わせる。
男子3人が店に吸い込まれるようにいなくなると、薫子の冷め切った頭が再熱した。
「もったいないなあ。両思いなのにー。」恵は自動ドアを開いた途端になぜか早歩きでお菓子コーナーへと歩く。
「今、なんて言ったの?」薫子はまた、恵の背中を追いかけた。
たくさんのカラフルなグミを前にして、ラムネ味のグミを指差す。
「このグミ好きなんだって、拓人が。さりげなくプレゼントしたらいいじゃん。“好き“って二文字を添えながら。」
恵は、薫子の視線が泳ぐ先を見逃さなかった。
「おごってくれたら手伝ってあげる」恵は両手に新発売のグミをひらひらさせている。
「めぐのいじわる。」
放課後 凪 @noruki903
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