私が選ぶ未来

瞬遥

第1章 無気力な日常 ①無気力な大学生活-1


1.1.1 退屈なキャンパスライフ


俺は今日も教室の隅に腰を下ろしている。

窓際でもなく、前でもなく、ただ一番目立たない場所。

黒板の文字はよく見えないけど、それで困ることもない。


ノートを広げ、ペンを走らせているふりをしながら、実際には落書きを描いている。

無意識に線を重ねて、意味のない模様を作っては、埋め尽くすように黒く塗りつぶす。


「辻村、そこ、ちゃんと写してるか?」

前の席のやつが振り返って声をかけてきた。


「ああ、うん。大丈夫」


俺は曖昧に返す。

ノートをちょっと持ち上げて見せると、そいつは「そっか」と言って前を向いた。

俺のページにあるのは、黒く塗りつぶされた四角形と、妙に長い足の人型の絵だけだった。


授業は淡々と続く。

教授の声は遠くから聞こえてくる雑音みたいだ。

熱心にノートを取っているやつもいるけど、俺には何も入ってこない。


ただ時間が過ぎればいい。

それだけだ。


大学って、なんで来てるんだろうな。


俺はそんなことをぼんやり考える。

母さんに「とりあえず大学には行きなさい」って言われて、姉貴にも「行けるなら行っときなよ」と背中を押された。


それで受験して、合格して、入学して……


でもその先は何もない。

ただ流れに乗って座っているだけ。


「あの、次のレポートの範囲ってどこまでかわかりますか?」

隣の女子が小声で聞いてきた。


「あー……えっと、四章までじゃないかな」


曖昧に答えると、彼女は「あ、ありがとう」と笑った。

笑顔は一瞬で、すぐに前に向き直る。


俺に話しかけたのは、レポートの情報が必要だったから。


それだけだ。


俺と話して楽しいわけじゃない。


その距離感は嫌じゃない。

むしろ、心地いいくらいだ。

深入りされないし、俺も深入りしなくて済む。

気を遣わなくていい。


……でも、ときどき胸の奥が少しだけ空っぽになる感覚もある。

何かを取りこぼしている気がするけど、それが何かはわからない。


チャイムが鳴って、教室がざわついた。


友達同士で固まって昼飯に行くやつら。

ゼミの話題で盛り上がるグループ。

俺の席の周りは、あっという間に人がいなくなった。

机に突っ伏してスマホをいじるふりをしながら、俺はみんなの背中をぼんやり眺める。


――なんで俺はここにいるんだろう。


考えても答えは出ない。

俺はただ、今日もまた、同じ一日を過ごしているだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る