第5話 イサク

 ――少し僕の昔話に付き合ってくれ。

 僕の名は、イサクという。

 ああ、由来だが、僕の親は熱心に神というものを信じていてね。

 その聖典の登場人物になぞらえたらしい。

 それがひどいもので、イサクは、その親の信仰心を示すために殺されかけるんだ。

 僕の親は、その信仰心にあやかろうとしたんだね。

 幸い、こうして僕は生きているけどね。


 おっと、話がそれてしまった。

 僕が、【シティ】で技術者をしていたという話はしたね。

 そう、僕はこう見えて結構優秀だったんだ。

 そんな感じの親だったが、とある企業の取締役をしていてお金はあったから、行きたい大学にも通わせてもらったよ。

 僕は、生き物というものに非常に興味があった。

 もちろん、僕は優秀だから、あらゆる分野で才能を発揮していたがね。

 世界には、僕たち以外の生き物がたくさんいるというのが、不思議でたまらなかったんだ。

 【シティ】の中では、ヒトか、もしくは愛玩動物であるイヌ、ネコくらいしか見たことがなかったからね。

 ああ、ラストタウン出身の君は他の動物も知っているよね。

 ネズミとか、トカゲとか、コウモリとか、トリとか。

 リオくんも知っているかな?

 図鑑で見たことがある?

 よく勉強しているんだね、さすがだ。

 【シティ】の外には、数えきれないほどの生き物がいる。

 それがとても楽しかったんだ。

 でも次第に僕は、物足りなくなっていった。

 だって、【シティ】のなかで研究するのには限りがあるし、かといって、外に出るのもなかなか難しかったからね。

 

 そんな時、彼女に出会ったんだ。


 彼女は、同じ大学に通っていた。

 混んでいたカフェテラスで、もう座るところがなかった時に、彼女が声をかけてくれたんだ。

 もしよかったら、相席どうぞって。

 とっても可憐でね。

 僕の初恋だったよ。

 彼女も本当は、僕の気持ちに気づいていたんじゃないかと思う。

 でも、お互い何も言わなかったさ。

 いや、また脱線してしまった。

 彼女は違う学科でね、AIやロボットについて研究していたよ。

 そう、僕たちは協力して、生き物を模したロボットを作ることにしたんだ。

 これが本当に難しくてね。

 比較的作りやすいと思って、まずは脳のない生き物を作り始めたんだ。

 ムシとかね。

 なかなか満足のいくものができなくて、毎晩彼女と研究室にこもったよ。

 青春だね。

 え、彼女とは進展はなかったよ。

 大学を卒業しても僕たちは研究室に残って、ずっと一緒に生物のロボットを作っていたんだ。

 だんだん、ネズミ、トリ、イヌといった具合で、複雑で大きな生き物に挑戦していった。

 彼女とは結局付き合わなかったけど、もはや恋人というより相棒だったね。

 気づけばお互い、しわくちゃの老人になっていたんだから。

 

 でも、終わりの時は突然来た。


 2年前の話だよ。

 僕たちのやっていた研究が、違法だって通報されたんだ。

 僕的には、法に触れていないと思っていたよ。

 でも政府から目をつけられたら、どうしようもないだろう?

 やつら、こっちの言い分なんて聞きやしないんだ。

 だから、研究所から彼女を追いだして、僕ひとりの研究ってことにした。

 彼女にも疑いの目は向いただろうけど、政府に調べられる前に、僕が彼女との接点をすべて絶ったからね。

 僕はというと、政府から追われる身となり、こうして逃亡生活さ。


 え、なんでラストタウンの居住区画に住まなかったかって?

 そもそも僕、人間は苦手だったんだよね。

 彼女以外友達いなかったし。

 あ、君たちのことは別に何とも思っていないよ。


 それにしても、彼女、どうしてるかなあ。

 

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