第2話 新しい世界
生きてる。
失った筈の意識は、まだあの忌忌しい自然の中に存在していた。目が覚めてから、視界は空を最初に映していた……太陽は奥へ沈んで、その灯火は細々しく世界に最低限の色を捧げてる。
赤い光は、空へと混じってオレンジを広げた。
もう夕方だった。
思考は、何とか保たれていた——世界は、以前と此処に存在してるけど、あの全身を巡ってた痛みはなかった。だから、少しましな感覚が身体を覆う。
しかし、以前と吐き気は心臓を鷲掴んで、脳をメリーゴーランドの様に掻き回す……。もう存在しない余力を奪ってくる。
身体中が、吐き気を催す。そんな気持ち悪さを全身に孕む。
壊れそうな感覚。でも、それでも現実を見ようとする思考。
一応視界に映る情報は、問題なく存在していた。それ以上に、吐き気で全ての思考は留められてるけど。
感覚は何処となく空を向いたまま、どうしようもならない現実を、どうしようもない方向に考えようと試行錯誤する。
とは言え、今はこの現実を見ていた。だってもう一度見せられたこの現実に、意味が判らなかったから。当然、思考意識は理解を拒んでいた。
「どうして、こんな場所に?」
この場所にいる理由。私はトラックで死んだ筈なのに、身体が存在する矛盾。辻褄を繋ぎ合わせようと、記憶を辿っても其処に存在する最後の記録には、強い衝撃で失った曖昧な暗点。
それでは、現状を受け止められない。此処に存在する情報は、悉くが理解を防ぐ。
あの衝撃は自分を殺した、今まで感じた事の無いそれこそ死そのものの感覚だった……だけど。確かなのは、意識はまだ存在している、夢でなければ。少なくともそう今は感じてる…気がする、いや。
いやもうそんな事どうでもいい。気持ち悪い吐き気が、思考を奪う。
「きもちわるい」それは何方の意味で?
自分から、体液の気色が悪い分泌液の匂いが漂う。それは、臭いと言うよりも、生々しい気色悪さの生理的な拒否反応の方が強かった。
多分、意識を失ってる間に、垂れた嘔吐の様な物な気がする。
だけど、最初の嘔吐もそうだったけど、これら嘔吐にはそれ特有の不快な匂いは、しなかった。少なくとも、曖昧な記憶上では。
それは……微生物が繁殖してたり、細菌が蔓延してたり、消化物が溶け込んでたり、そう言った際に発生する不快な香りが無かったと言う意味な気もする。
そもそも、嘔吐自体は唾の様な、透明な白色の——自分でも良く解らない液体しか、吐かなかった。
連想して、
そう言えば。気持ち悪さに隠れてて最初は気付かなかったけど、酷い空腹感を感じる。腹部への虚無、それに対するお腹を貫く拒絶的な感覚、そして付随する不快感。それは今までにない感じた事のない程、酷い。
だけど、その感覚とは裏腹に、思考は、それを奇妙に捉えてる。
だって、とても今は食欲が沸く状態じゃない——考えられる限り、最悪の状態に思えた。どうして、この食欲はどこから沸いてるの?いや違う。正確に言えばこれは食欲と言うよりも、生存欲求の様な、酷い体への異常に対しての反応の様で……。
あれ、だとしたらつまり、この空腹は命の危険の為に発生する、危険信号?
思考は、更に錯綜する。
はぁ頭が身体が気持ち悪い。
意識を失ってた時間は解らない。けど、体感的には長い々々間眠ってた、その感覚を吐き気の奥に微かに見える。
もしそうだったとすれば、その間何も食べてないのは____単純な想像でも危険な様に思える。いやと言うか!先ず現状に意味はわからないのだけど。この場所に立ってた時から、自分の体内には何も入ってなかった…気がする。
見たくもない嘔吐を眺めても……胃液の生臭ささえ無かった。それは、胃液が消化液として分泌されていない。つまり私の中には、何も消化する物がない?と言う事を表されてる気がした。
一気に、存在を忘れられてた空腹感が、迫り来る。
でも、正直。空腹感も根本的にはどうでも良かった。それ以前に、この身体を流れる気持ち悪さが、思考を支配してたから。
はぁこれ以上に単純な苦痛で終われるなら、死んでしまいたい。もう死んでしまえば終わる——終、わる?
あれ。だけど。でも。………世界は 私が 死んでも
「存在してる」
恐怖が肌を逆立たせる。これまで感じた事の無い程、深い、淀んだ感情が世界を包む。絶望、本当の絶望。
正気を失わせる。心を殺す、本当の意味で。
荒れる呼気すら、保てそうにない衝撃の絶望感。身体をどう動かせば良いか、解らなくさせて、酷い拒絶反応を引き起こした。
でも、もう理解した……嗚呼。諦める事ってできないんだ。
「私は水を飲まないと、死ぬの?」
動かないと。
酷く気持ち悪い。覚束ない感覚が、身体を不安定に動かす。嗚呼……気持ち悪い。ずっと、あの気持ち悪い感覚が、身体中を巡ってる。
空気と一緒に流れ込む。
まるで酷い。酷いインフルエンザをもっともっと、もっと何段階も煮詰めて蒸留して、純度を高くしたその有り余る苦痛だけを抽出した様。そんな事を一瞬の映像として思考に連想させたぐらい酷い。
嗚呼、身体が言う事を聞いてくれない、分離してるかの様な感覚。痛さが、その感覚を誘発してるみたいで。
痛くて、死ぬ。死にたい。声を漏らす、いや漏らしたかった。だけど……だけど。安易にそんな事考えちゃ駄目だ。
今の現実を見てよ。私は生きてるんだよ?
死ぬって本当の恐れるべき事なのかも知れない。だって、もしかしたら救いなんかじゃ無い、かも???……少なくとも、あの時は終わりじゃ無かった。
嗚呼今まで本気で信じてなかった、死んだ先の世界。どうせ死んだら、何もかも終わりだと思ってた。
だけど、本当はほんとうの本当は……死んでも、意味がいみが!いみが…ないと言う現実?違う、思考が酷く錯綜してる。
ただ私は、死んだのに存在し続けてる。これが私が感じた今。
存在し続ける理由って?
全部勘違いだった。そもそも、死んだら終わりなんか、幻想だった。
嗚呼。世界はずっと、ずっと苦しいばかりだ。終わりがない。結局、終わらない。苦しみがどんどん酷く濁って、浸透し続ける。ずっと注ぎ込まれて、過去には穴が空いて、今に全て注ぎ込まれてるみたいに。
嗚呼。未来はどうして、こんなにも暗いの?
思う様には、世界は進まない。
行く宛も無いのに、もう日は届かず暗く誘い込む、闇の中へそれでも意識は這いずる。何かを探して…それは、水?此処にいる意味?苦痛からの解放?自分の目的すら、明確に理解できていないのに———。
だけど。
苦しい。苦しいが溢れる。私の器から溢れてるのに、終わらない。ずっと注ぎ込まれてるんだ。もう、終わらない。
だけど。
苦しみを解決する手段なんて無かった。考えても、わからなかった。私には、私では無理だった。
嗚呼意味なんてなかった。
だけど、
ただ、「諦めるしかなかったんだ」
そう最初から道はなかった。これまでずっと諦めた振りをしてた。ずっとずっと、救済を求めてたんだ。
苦しみを無視することは出来ないの?永遠に続く、終わりがない、死ねない?だから真実の意味で解放は存在しない……だから!行動しないをし続ける事は出来ない、のですか。
それは、ただ明日を呪ってその明日の苦しみが明後日を呪う。それだけだった。
そして、何時かの日全てを呑み込むみたいに、その呪いが溢れるんだ。全部、呪いは堆積し続けた。一番苦しいのは今で、だからこそ更に堆積された未来の今はそれ以上に、苦しいのだろうか?
じゃぁ結局、全部その瞬間生きてると言う時に、行動しなければならなかったの?
「はは。馬鹿らしいや」
終われと願う程苦しいと言う割に、こんなにも思考が回るなんて、自分の生存欲求に対して本当に、嫌気が湧き上げる。もう全て幻想でしかなかったと言うのだろうか。今までの全てが——。
嗚呼……世界は酷いんだね。
足を動かす。行き先も知らずに、解決法も解らないのに、それでも今を駆け走る。いや、本当は賭け走れるほど身体を上手く扱えなかった。
ただ這ってた、這う事さえ出来てるか解らない程だけど。
でも、まるで世界は、全てがただ進む様に動く——その感覚だけを見て、前へ進む。意味は存在しない世界で、救済が存在しない世界で、だからこそ苦しみを受け入れるしかないって、言い聞かせる。
私は苦しみを理解した。「本当の苦しみを、知る事が出来ないと言う事を」
それは、いつか来る苦しみが一番辛くて酷くて、だから今の苦しみを受け入れるしかないんだ。
それを無視する事はできないから。
私は、無我夢中で、覚束ない身体を杜撰に引き摺って、何処かへ向かった。無我夢中と言う言葉、そのままに。
足を切って、腕を切り裂いて、身体へ突き刺ささった枝を、それを受け止める余裕を思なかった。前に進まないと……生きないと、進まないと、今は「水」を。
暗い。
暗い。
くらい。
どれくらい歩いんたんだろう。
世界は、ずいぶん前に闇に包まれてた。太陽はもう存在しなくて、視界も黒しかなくて、何だかもう、喰い縛った歯の血の味もしなくて。
歩いてるのかな、歩けてるのかな、もう働かない身体がはたらか…ないようで。意識は暗闇に、遂には誘い込ま、れ
暗く流れる。
そう時は、清らかに落ちた。
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