第2話 第一関門
夫の攻撃ターンになる。
「ちょっと待て、作家デビューってなんだよ!?お前は、ご主人様が汗水垂らしながら、働いているというのに、その間に小説など書こうというのか?」
「小説なんて書くぐらいなら、もう少し栄養のバランスが取れた食事を用意したらどうだ!!」
さすがはモラハラ夫の代表格。こうも迷言を残してくれるとは、感謝状を渡さねばいけないだろう。小説のネタがどんどん湧いてくる。
「あなたのおっしゃることはわかりますが、もうすでに決まったことなので」
「なんだと!?」
夫の息が徐々に乱れていくが、エリーナは話を続ける。できるだけ穏やかに物事は進めたい。
夫の顔をチラりと見る。何か言いたそうな顔をしている。心を落ち着かせるために、一応聴いてみるか。
「どこから話せば良い?」
夫は顎に右手を添えて、沈黙した。そして、少しして、口を開き始めた。
「経緯やら、聴きたいことはたくさんあるが、まず小説を書くというが、具体的にどんなジャンルの小説を書くんだ?一応、お前は勇者の妻だからな。政権批判みたいな社会派の小説はやめてくれよ」
意外と冷静な質問に、少し驚いた。怒ったときは、支離滅裂なことを言うが、さすがは勇者様。頭の切り替えは早い。まぁ、そんなところに惚れて結婚したんだが。
「ノンフィクション小説でございます。勇者様との新婚生活を描いています」
「新婚生活、、、なんだか恥ずかしいな。人様に自分達の生活をさらけ出すのだぞ。お前はなんとも思わないのか?」
「勇者様の良きお人柄を思う存分、知ってもらえるのはこの上なく幸せでございます」
「ついさっきまで、あ・な・た、と言っていたやつの口からの言葉とは信じがたいな。」
間髪入れずに、エリーナは追撃する。
「勇者様のことを愛していなければ、結婚などできませぬ」
夫は少しニヤける。再び沈黙した。そして、再び話し始めた。
「そうか、まぁ、悪くはないな。だが、しっかりと俺の魅力を書くんだぞ!」
「もちろんでございます」
エリーナはほくそ笑んだ。初めはどうなることかと思っていたが、第一関門は突破した。
もちろん、勇者様の魅力などこれっぽちも書いていない。むしろ勇者の妻としての愚痴ばかりだ。
もちろん、そんな小説を世に出せば、勇者様の逆鱗に触れるだろう。だが、そんなこと、想定済みだ。楽しみに待っておけよ、あ・な・た。
勇者の妻となった私が、日々の生活をブログに書き始めたら、瞬く間に人気作家になった話 @MK_desu_
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