勇者の妻となった私が、日々の生活をブログに書き始めたら、瞬く間に人気作家になった話

@MK_desu_

第1話先制布告

勇者の妻になるということは、幸福の反対を意味する


 こんな出だしはいかがなものだろうか?言い過ぎのような気もする。


 世間から共感を得られるという編集部の意見に従って書いてみたが、どうもしっくりこない。強く言い切るほど不幸ではない生活をしているというのに、なんだか読者に嘘をついているような気がするのだ。


「さてと」


 泣き叫ぶ赤ん坊を横目に執筆を続けていたが、近所のママさん達の目が気になるので、中断する。


 ミルクを温めながら、一息つくと、扉の開く音がする。勇者様のご帰宅だ。


 勇者様は、部屋に入ると、間髪なく言い放った。

「エリーナ、君はいいよね。仕事もせずに、家でグータラできて」

「はあー!?」


 やれやれ。疲れて帰ってくるといつもこれだ。そして始まる夫との口喧嘩。さあ、今日はどんなパンチが繰り出されるか?


「失礼ですが、勇者様。私はあなたの妻であり、朝から晩まであなたの代わりに家事育児をしております。それなのにグータラしてて、という言い方はいかがなものかと」


 だいぶ早口で言った。心から思っている言葉はすぐに出てくるものだと感じた。さあ、どうだ?勇者様の顔を見る。薄紫の爽やかな瞳ではあったが、目は笑っていなかった。


「所詮は家事育児だろ?」


 キター!!全国の主婦から嫌われる言葉。だとしたら、次のセリフも予想がつく。


「俺は勇者として、お前たちを支えられるぐらいに稼ぎを得ている。一方でエリーナ、君はどうだ?誰の金で飯が食べられているんだい?」


 ここまで完璧な回答は、ないだろう。では、今度は私からカウンターを仕掛ける。


「分かりました。では、私がお金を稼げば、よろしいのですね?」


 勇者様は大きく口を開くが、言葉にはならなかった。では、そのまま攻撃を続けさせていただきます。


「私、今度、作家デビューいたします。なので、あなたも家事育児よろしくね?あ、な、た?」


「はあー!?」

 

 勇者様はやっと声を出したが、もう遅い。私は宣告したのだ。


こうして私の作家デビューは始まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る