第2話 皮肉な天才

舞村がきて、2日目の朝。

異世界転移を経験した40人は寮生活を強いられていた。


舞村は朝早くから教室に入った瞬間、花瓶の水を入れ替えていた中村悠人を見つける。


「真面目だな、中村」

「先生こそ、君をつけるのはやめたんすね」

「まあな、俺の見た目と合っていないようだからな」


他愛もない会話をしながら、二人は軽く朝の準備をし始めていた。


「そういえば、生徒からの意見を聞いてなかったな」

「何の意見すか?」

「特別クラスの人間は異世界転移する前どんな感じだったのか聞きたくて。一応都筑先生のレポートがあるが、情報は多ければ多いほどいいからな」


悠人は教室の前側にある時計を見たあと、話し出す。


「まだ誰も来ない時間なんで話しますけど、俺たちのクラス元から有名人が結構いたんすよ」


舞村は悠人の視線を合わせ、黙って聞いている。



「例えば、昨日俺が先生に中指を……」

気まずそうな顔しながら語り出す悠人。


「その事はもう大丈夫だぞ」

舞村の言葉に少し安心して、悠人は話を続ける。


「その時、俺に対して『煽ってるつもりが、逆に御されてのウケる』って言ったやついるじゃないすか?」

「いたな」

「そいつの名前は野村ノイ。この学園で悪い意味で1番有名な男です」


「これはあくまで噂なんですが、高IQで海外には研究者の両親がいるって言われてる。

で、俺の知っている、あいつはめちゃくちゃ口が悪くて、相手をおちょくるのが大好きなやつなんです」


中村は普段ノイに対してイラついているのか、さらに語り始める。


「ムカつくことに、あいつ普段の授業を聞かないから中間テストや期末テストは一位じゃないのに、模試関係だと一位とってくるのが腹立つし、さらにハーフだから鼻筋通ってて顔が可愛い系って理由で女子からモテてるし、さらに——」


「オーケー。大体わかった」

さすがに話が長くなりそうなので、舞村は話を遮った。


悠人は、舞村が新聞紙で窓を拭いているのを見て、新聞紙を受け取り手伝いながら言う。


「先生だって、あいつのむかつく顔見たらイラつくに決まってます」

「中村、言い過ぎだぞ」

「だって、そうなんですよ」


中村が隣の窓を拭こうとした瞬間——


「その、ムカつく顔ってこんな顔?」


「そうそう、そんな感じで心の中が邪気しかないのに、無邪気な瞳をしてる感じの——ウギャ!」


中村は振り返った瞬間、驚いて軽く尻餅をついた。


「アハハハハハハハハハ! ちょっと驚かしただけで『ウギャ』って声出すなんて……ウケる! 腹痛ぇ……! 床叩いてたら、手まで痛くなってきた!」


笑い転げるのは、白髪の青年だった。


「君が、野村ノイか」舞村が静かに口を開く。


ノイは笑いすぎて目尻を拭いながら、にやりと笑う。

「先生、昨日会ったばっかなんだから覚えててよ。でもまぁ仕方ないか。昨日はみんなで先生のこと無視してたし、印象薄いのも納得だね」


軽く服装を整え、ノイは会釈してから悠人に話しかける。

「それにしても、君……なんだっけ?」


「だから、俺の名前は中村悠人だ!! この会話、何回目だよ!!」


「ごめんごめん。興味ないことはすぐ忘れちゃうんだ」

ノイは悪びれもせず、マイペースに続ける。


「でも昨日まであんなに反抗してたのに、どうして急に……去勢された犬みたいに舞村になついてんの?」


その言葉に教室の空気が一瞬重くなる。

ノイは舞村をじっと見つめ、挑発的に笑った。


舞村は短くため息をつき、ノイの肩に軽く手を置いた。


——瞬間、ノイの身体が粉々になって消えた。


「先生!!何やってんだよ!!」

教室には、中村の悲鳴だけが響き渡った。












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13人の異世界帰還者を導いてよ勇者先生 @1885

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