第7話 ライバル登場!?

 朝、俺はとても清々しい気分だった。

 そう、まるで生まれ変わったような感じ。

 髪の毛が。

 簡潔に言うと昨晩ハゲ共から貰ったトリートメントが最高だった。

 とろみのある液体。

 髪になじませた瞬間感じたね。

 ああ、これは本物だって。

 風呂から出て髪を乾かしてる時の手触りが違う。

 明らかに髪のボリュームが増えているのだ。

 これは謎の成分で毛をコーティングした一時的なものかもしれない。

 だが、俺にはそれでも十分だ。

 これでまだ俺は戦える。

 雪子、待っててくれ。


「何か良い事あった? 髪の毛も元気そう」

「ん、まあな」

 そんな俺の様子に雪子が気付いたらしい。

 俺の心境、そして髪の毛の僅かな変化を見逃さない雪子。

 こういうよく気が付く所も彼女の良い所だ。

 そして何度でも言うが、俺の幼馴染は世界一可愛い。

 ごめん、これは今初めて言ったかも。

 まあそんな感じで俺は最強幼馴染といつもの登校を満喫している。

 例えばの話。

 今、突然空から女の子が降って来たとする。

 金髪ツインテールの貧乳ツンデレ美少女だ。

 そんな彼女が「い、今私のパンツ見たでしょ!」とか言ってヒロインムーブをかまして俺に絡んでくる。

 普通の主人公なら「べ、別に見てねえし!」みたいな鼻くそ食ってそうな小僧みたいな反応をしながら、満更でもないみたいな表情を浮かべるだろう。

 そして、美少女と喧嘩しながら仲良くなってゴールイン。

 長年、主人公の傍に居て誰よりも主人公の事を理解してくれている幼馴染は、焼きもちを焼いたり闇落ちするかしてフェードアウトだ。

 ふざけてるよな。

 ずっと傍にいた幼馴染を切り捨てて、突然現れた女と付き合う。

 俺にはとてもそんな真似は出来ない。

 そもそも、雪子以外の女なんてゴミだと思ってるしな。

 仮に雪子が死んだとしたら俺も死ぬ。

 異世界に雪子が飛んでいったら、俺も転生トラックに迷いなく突っ込む。

 つまり、俺が何を言いたいかと言うと。

 例え今、金髪ツインテールの美少女が現れたとしても俺はおさな――。

「ねえ、ちょっとあんた!」

「……」

「無視しないでよ! そこの将来ハゲそうなあんたよ!」

「は? ぶち殺すぞ」

「なんですってッ……⁉」

 俺の頭の中の熱い語りを邪魔しやがったのは金髪ツインテールの美少女だった。

 直前まで俺が頭の中で想像してた美少女が目の前に立っている。

 ラブコメかよ。

 一つ語弊があったな、美少女というのは世間一般的にはそうだろうという事だ。

 俺にとってはこんな金髪ツインテール女なんかゴミみたいなもんだ。

 雪子の方が百倍は可愛い。

 しかも、雪子には最強のこけしモードがあるからな。

 全く、どこまでも最高な幼馴染だよお前は。

「雪子、行くぞ」

「うん」

 金髪ツインテール女を無視してずんずんと進む。

 後ろの方で「この私にこんな態度をするなんて……面白い男」とか聞こえるけど、無視だ無視。

 フラグなんていらねえ。

 俺に必要なのはこけしだ。

 

 朝のホームルーム。

 いつもの教室、そしていつものハゲた担任。

 一つだけいつもと違うのは、担任の横に金髪ツインテールがいる事。

 どこかで見た顔をしてるなと思ったら、朝俺に声をかけてきた奴だ。


「おいおい、転校生かよ、すげえ可愛いじゃん」

「金髪ツインテールなんてリアルで初めて見たよ」

「俺、決めた。あの子に告白するわ」

「お前じゃ無理だって! 俺が行くわ!」


 クラスの男子共がざわついている。

 だが、俺はこの先の展開を知っている。


「あっ! あんたはあの時の!!」

 

 はい、出た。

 お約束の展開だ。

 金髪ツインテールが俺を見ながら大声で騒いでるが無視する。

 絡まれたくないからな。

 一ミリも興味ないから俺以外の男と勝手にラブコメしてて欲しい。

 心なしか奴の目線が俺の顏より少し上、髪の毛にいってるのは気のせいか?

 まあでも全然いいよ。

 雪子以外の女にどう思われようがどうでもいい。

 薄毛でもハゲでも何とでも思うがいい。

 俺はその間に雪子と幸せな時間を過ごさせてもらうだけだ。

 

「何で無視するのよ……、このハゲえぇええええええええええええ!!」


 教室中に金髪ツインテールの大声が響き渡る。

 うるせえ女だ。

「あれ、あの子。朝の子かな」

「気のせいだろ、やばそうな奴だから目を合わせない方がいいぞ」

「ハゲって叫んでるけど、ワタルの事?」

「んなわけねぇだろ、俺はフサフサだ、あいつは多分いかれてんだよ」

「そう」

 ナチュラルに俺とハゲを結び付ける雪子。

 俺は平然と答えていたが、心の中では号泣していた。

 

「ほらほら、お静かに。では金髪・ツイ・ンテールさんは森山君の隣の席に座って下さい」

「ふん、分かったわ」

 担任の先生に促され、不満そうに森山の隣の席へと移動する金髪ツインテール。

 まさか名前も金髪ツインテールとは思わなかったわ。

 

「俺は森山だ、よろしくな。趣味は野球だ」

「うっさい殺すわよ、鼻くそみたいな顔しちゃってさ」

「ハハハ、面白れぇ女」


 よし、いいぞ森山。

 金髪ツインテールは森山ルートに入ったっぽいな。

 一時はどうなるかと思ったが、これで解決だ。

「雪子」

「ん、どうしたの?」

「今日も平和だな」

「うん」

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