リモコンで止める魔法少女
私には父親が違う年の離れた四歳の妹がいる。保育園に行ってないので、いつも私が中学校から帰るのを玄関で待っている。
「おねーちゃん、おかえり!」
「ただいま、舞」
舞は母と、今の父の間にできた子で、私にとっては可愛い妹だ。
「今日もアレしよ!」
「はいはい、着替えてくるから待っててね」
自分の部屋に行く途中、リビングを横目で確認する。思った通り、頬を腫らして泣いている母と、不機嫌そうに煙草を吸っている父がいた。
新しい父は変な人だった。働いていないのにたくさんお金を持っていて、すぐに母を叩く。母のことが嫌いなのかと思ったらその反対で、好き過ぎて母が誰かに優しくしたり、笑ったりするとムカつくらしい。そのせいで、母は私や舞に優しくなくなったし、笑わなくなった。怒りっぽくなったと思う。でもそのおかげか、私と舞は父に叩かれなくなった。
「お待たせ」
舞の部屋に行くと、タオルケットをマントのように羽織った舞が
「出たな! 怪人め!」
と、扇風機のリモコンをこちらに向けた。電源オンオフと弱中強と首振りの3つのボタンがついた小さいリモコンが、舞のお気に入りのおもちゃだった。
「ふはは、覚悟しろ!」
「えいっ!」
低めの声を出しながら近寄ると、舞が電源のボタンを押す。そうしたら、私はピタッと止まって動けなくなるフリをする。
「くっ、動けないぞ!」
「あはは! えいっ」
首振りのボタンを押されたら首を振って、弱中強を押されたら舞からの攻撃が当たったフリをする。リモコンを使った魔法少女ごっこが舞は大好きだった。
私はあの両親とずっと家にいないといけない舞が可哀想で、いつも全力で付き合った。でも小さい妹が、このリモコンで人を操れると信じて、万が一、両親に使ったら何をされるかわからない。だから私は遊び終わったらいつも
「いい? 舞のこの力は絶対に秘密だよ。でないと魔法が使えなくなっちゃうからね」
と言い聞かせた。いつも舞は神妙な顔で
「わかってるよ、おねーちゃん」
と頷くのだった。
その日の夜も、夫婦喧嘩が始まった。私と舞が自分の部屋にいると、両親はより激しく喧嘩した。
暫くして、何か大きいものが倒れたような、ドスンという音がした。恐る恐る様子を見に行って言葉を失った。
「おねーちゃん、ごめんなさい。舞がパパのことリモコンでストップさせちゃったの」
リモコンを握りしめて泣いてる舞、血を流して倒れている父、そして血のついた鍋を持って座り込んでいる母がいた。私は舞を抱き締めて
「舞がやったんじゃないよ」
と言うことしかできなかった。
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