第2話 イケメンに姫プされるなんて嫌だ!

 、リーナ・フローライトが、前世の記憶を取り戻したのは、エリシア中央学園に入学した、正にその日だった。

 学園の外観、中央にそびえる時計台を見た瞬間から、「あれ? 初めて来たはずなのに、知ってる気がする?」なんて思っていた。

 

 さらに異変が起こったのは入学式の最中。

 入学生代表を務めたエリシア王国の王子、シャルル・エリシアの演説を聞いた時だ。

 なんだか視界がグワングワンと揺れ、その場に倒れかけた。

 

 それから、私は最悪な体調のまま入学式を乗り切り、やっとの思いで学園の寮へ戻った。

 そして、トドメになったのが、自室の鏡で自分の姿を見た時だ。

 

 その瞬間に、私の、否、俺の…………。


 (っって、めんどくせぇぇ! ちょっと考え事する度に、自分の一人称に困る! ……もう私で良いか)


 とにかく、あの瞬間、私の意識の中に、日高一二三の記憶がよみがえった。

 

 前世と現世で性別が異なるせいで、まだ自分のアイデンティティが揺らいでいる最中であったりする――。

 

 そんな私は、現在、寮の自室で悶絶している途中であった。


「あ~もうっ! 世界の強制力的なものが働いてるのか? ポケットからハンカチが落ちる要素なんて何もなかったのに、アレのせいでシャルルの野郎と関わっちまった!」


 ゲームのシナリオは妹が楽しんでいるのを横目で見ていた程度で、しっかりと把握していないが、今日のイベントの事は覚えている。

 『王子様にハンカチを拾ってもらう』という、ベタ過ぎるシチュエーションが印象に残っていた。


 (正規のシナリオだと、あれをきっかけにシャルルと仲良くなっていくんだったか)


 前世の記憶を取り戻した私に、あの気障すぎる輩と仲良くやっていく自信はない。それは、他の攻略対象にしたって同じだ。

 喋り方がネットリしてるし、女を思い通りにできると思ってそうな態度(偏見)も気に入らない。あと、イケメン過ぎてウザい(私怨)。


「でもなぁ~、私、支援職なんだよなぁ」


 学園の地下には、ダンジョンと呼ばれる巨大な魔窟が存在している。

 生徒たちは学園の卒業までに、ダンジョンを何回層まで踏破できたかによって、その後の進路が大きく変わる。

 10階層なら非戦闘職。20階層なら町の衛兵。30階層なら王城の騎士。

 ざっくりしたイメージだが、そんな感じで卒業後の就職先の選択肢が広がる。

 

 私にとって、ここはもう現実の世界。

 卒業後の選択肢は増やしておきたいものだ。

 

 (でも、支援特化の私だけでダンジョンを進むことは難しいわけで)


「だからって、いけ好かないイケメンどもに姫プされるのなんて嫌だ!」


 そうして、私は、頭を抱える事になるのだった。

 

 だが、私は思い至る。


「――いや、一人だけいる。とんでもないのが」


 とある、最強のキャラクターの存在に……。

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