トッププレイヤーだけど、異世界で本物のエースパイロットになった件

@valensyh

第0話 ~始まり

「プロゲーマー、異世界でエースファイターになる ~愛機と共にファンタジー世界を翔る~」


 モニターの光が、薄暗い部屋でレイの顔を照らしていた。


 ヘッドセットからは、緊迫した無線のやり取りと、自らが操る戦闘機のジェットエンジン音が鳴り響いている。

 画面の中では、レイの愛機であるF-15Eストライクイーグルが、雲を切り裂き、敵機を追っていた。


 世界最大級の対戦型フライトシューティングゲーム、『エースファイター・オンライン』。

 その年間チャンピオンシップ、決勝戦。レイは今、その舞台のど真ん中にいた。


「残り時間は30秒! スコアは同点!」


 実況の熱狂的な声が、観戦している数百万人の視聴者の興奮を煽る。

 敵はたった一機。相手もまた、世界に名を馳せるトッププレイヤーだ。互いに一歩も譲らない、超絶的なドッグファイトが数分間も続いていた。


 一瞬の油断が死に繋がる。

 レイの指は、まるで生き物のようにフライトスティックとスロットルを操作する。思考は極限まで研ぎ澄まされ、コンマ数秒先の未来を読み、機体を動かしていた。


 敵機が急旋回し、背後を取ろうとする。

 だが、レイはその動きを読んでいた。


「――もらった」


 呟きと同時に、彼は機体を逆方向にスライドさせながら急減速。敵機はレイの機体を行き過ぎて、一瞬だけ、無防備な背中を晒した。

 オーバーシュート。神業的な機動制御が生み出した、ほんの僅かなチャンス。


 レイは即座にAIM-9サイドワインダーを選択し、ロックオン。

 ピピピッ、という電子音が鳴り響き、発射ボタンを押し込む。


 シュッ、という音と共に、ミサイルが翼から離れ、白い煙の尾を引きながら敵機を追う。

 回避は不可能。


 画面の中で、敵機がオレンジ色の閃光に包まれ、爆散した。


『撃墜を確認! 勝者、プレイヤー“Rei”! 新チャンピオンの誕生です!』


 沸き立つ歓声と祝福のコメントが、画面を埋め尽くす。

 レイは大きく息を吐き、ヘッドセットを外した。二十歳にして、彼はこのゲームの頂点に立ったのだ。


「……終わった」


 安堵と達成感に身を委ね、椅子に深くもたれかかった、その瞬間だった。


 ブツン、と。

 部屋の電気が消えるように、PCモニターが真っ暗になった。


「停電か?」


 そう思ったが、違った。

 モニターの中心が、まるで墨を垂らしたかのように、じわりと黒く染まっていく。

 その黒は、光さえも吸い込むような、絶対的な闇。

 やがて、それは不安定な円形のゲート――ポータルのような形を成していく。


「な……んだ、これ……?」


 ゲームの演出? いや、そんなものはない。ハッキングか?

 レイが立ち上がろうとした瞬間、その黒いポータルから、抗いがたい引力が彼を襲った。


「うわっ!?」


 体が椅子から引きずり出され、宙に浮く。部屋の中の物がガタガタと音を立て、ポータルに向かって吸い寄せられていく。


 これが現実の出来事だとは、到底信じられなかった。

 しかし、モニターに引きずり込まれていく体の感覚は、あまりにもリアルだった。


 闇に飲み込まれる直前、レイの意識は、ぷつりと途切れた。

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