第5話

砂漠は朝焼けに染まり、風は静かに吹き渡る。舞台は広大な砂地、観客はただの風、太陽、そして遠くの砂嵐だけ。だが、そこには悠馬の魂が満ちている。三人の女優、香織、理栄、紗良は、その存在を胸に抱き、砂漠の舞台に立つ。


ゴネリル役・香織の覚悟


香織は深く息を吸い、悠馬の意志を思い出す。彼の全てを託された瞬間を、今、自分が全身で体現する。ゴネリルとしての凛とした存在感、野心と愛憎の交錯を、役そのものに重ねて表現する。


「悠馬……私はあなたの勇気を受け継ぐ」


声に力があり、砂に乗せて台詞を響かせる。汗と砂が肌を覆い、呼吸は荒い。それでも彼女は倒れず、舞台の中心に立ち続ける。


リーガン役・理栄の沈黙


理栄は静かに舞台に向き合う。彼女の沈黙は悠馬が残した教えの象徴だ。声を発さずとも、全身で心情を表現する。怒りと冷静さ、悲しみと愛情を同時に描き、役を生きる。それは単なる演技ではない、悠馬の魂との対話だった。


「彼の死を無駄にしない……私たちは生きる」


砂の上で踏ん張り、台詞の間に悠馬の姿を想う。その心は舞台を超えて、砂漠全体に溶けていく。


コーディリア役・紗良の透明な光


紗良は涙を堪えながらも、舞台での悲しみを浄化するように台詞を紡ぐ。彼女の透明な存在感は、砂漠の光に映え、悠馬の魂を導く光となる。役としての強さと純粋さが、舞台全体を満たす。


「悠馬……あなたの命は、私たちの中で生き続ける」


その瞳には、弟子への深い愛情と敬意が宿る。


老俳優の見守り


百歳の師は杖を握り、三人の女優を静かに見守る。悠馬の死は深い悲しみをもたらしたが、彼の遺志が三人に受け継がれていることに、胸を撫で下ろす。砂漠の舞台は過酷だが、それを生き抜く若き俳優たちの姿は、演劇の本質を示していた。


「役を生ききるとは、こういうこと……悠馬よ、君の命は、確かにここに生きている」


彼の声は風に消え、しかし心の中に深く刻まれる。


砂漠の終幕


三人の女優は互いに目を合わせ、静かに頷く。悲しみを力に変え、役として生きる決意が、砂漠の舞台に充満する。観客はいない。だがそれでいい。板の上でも砂の上でも、舞台とは命をかける場所であり、悠馬の魂を表現する場だからだ。


砂漠の太陽は彼女たちを包み、風が台詞を運ぶ。悠馬の魂は舞台を超え、三人の女優とともに永遠に生き続ける。百歳の師は微笑み、杖を地に立て、静かに目を閉じる。砂漠の静寂の中、生命と演劇の尊さが交錯する。


そして、砂漠の舞台は永遠に続く――役を生き、命を賭ける者たちの物語として。


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演劇とは @19910905

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