推しに恋してメロを知る

松浦どれみ

もはや親戚のおばちゃん

 サバイバル番組。アイドルを目指す若者たちのオーディション番組。けっこう好きで、時間があればたまに見ていた。

 けれどアイドルって、あまり興味がなかった。だから番組からデビュー後は追わない。私の謎ルール。

 アイドルたちのキラキラした世界は、遠い遠い別次元の話。仕事と家事育児に追われる毎日で、ステージの眩しさなんて私には縁がない——そう思っていた。


 そんな私の心をひっくり返したのが、あるオーディション番組。字幕を追いながら見るテレビ画面に映ったのは、20歳にして芸能活動歴8年の男の子。鋭い眼差しと、ふっと笑ったときの柔らかさ。そのギャップに心臓が飛び跳ねた。


 まあ、とにかく顔が最高に好きだった。


 え、誰? とリモコンを持つ手が止まった瞬間、人生の色が塗り替えられた。

 気づけば、毎週欠かさず番組を追いかけるようになっていた。


 初めから、人の話を聞くとき、すっと背筋を伸ばし、全身で傾聴するような姿勢に好感を持てた。それは、彼がダンスの振りを飛ばして、注意されているときさえもそうだったから驚きだ。

 仲間たちへの優しさ、気遣い。落ち込む姿はあったが、彼が不機嫌な姿を、私は見ていない。なんて素晴らしい人。うちの子もこんな子に育ってくれたらいいな。もう画面の向こうにいるのに、私は「がんばれ!」とテレビに向かって叫んでいた。リビングで一人、拍手までしていた。


 推しがいると、毎日が変わる。努力家な彼のファンたるもの、だらしないおばさんでいてはダメだ。そんな気持ちから筋トレとストレッチを始めた。すでに1キロ体重が落ちた。SNSや公式サイトで見る彼は、仕事や家事の合間の癒し。みなぎるやる気。


 そして、彼の言葉をもっと理解したくて、私はとうとう韓国語の勉強を始めた。文字や計算を勉強する息子の横で、ハングルを書く私。丸と棒を書きながら、これは「ホ」かな?「シ」かな? とノートが彼一色になっていく。推しがいると、こんなにも学ぶ意欲が湧くなんて。学生時代にこの集中力があれば……。

 でも、それでもいい。推しの存在が、今の私を楽しくしてくれるのだから。


 ——ところが。

 なんとか人の名前くらいなら読み書きできるようになった頃、ハッと気づく。

 そういえば。彼って中国人だった。

 私のノートにびっしり書かれたハングル文字を見て、思わず笑ってしまった。いや、たしかに彼は韓国の番組に出て、韓国語を話すけど。愛のあまり、方向をちょっと間違えてしまったらしい。

 けれど、それすら楽しい。推しがいると、人生はこんなふうにいい方向に転んでいくんだ。



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推しに恋してメロを知る 松浦どれみ @doremi-m

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