エピローグ
3×3世界大会は、日本代表の優勝という衝撃の結末で幕を閉じた。
翌日には皆、帰国の渡につく。各国のプレイヤーたちはホテルで荷造りを済ませ、名残惜しそうにそれぞれの夜を過ごしていた。
日本代表の4人――遥(NOVA)、美月(QUEEN)、ユウタ(YUTA)、翔太(Hare Show)は、スイートルームの一角に集まり、紙コップ片手にジュースで乾杯した。
「はいっ、世界一の日本代表に――かんぱーい!」
Hare Showが両耳(お面のウサギ耳)をぴょこぴょこ揺らしながら音頭を取る。
「かんぱーい!」
全員の声が重なり、部屋に笑いが広がった。
「……ふぅ、ようやく終わったわね」
美月はソファに腰を下ろし、大きく伸びをした。
「ヴァーチャルなのに、終わった後は全身マラソン走ったみたいな気分よ。ねえ、これ絶対“脳筋トレーニング”でしょ」
「脳筋……いや、正しくは“メンタル筋”かもな」
YUTAが苦笑いを漏らす。
「なるほど。精神的ムキムキになれるゲームってわけね!」
Hare Showが乗っかり、力こぶを作ってみせる。
「はは……でも、確かに疲れたけど、不思議と悪くない疲れだよ」
遥も笑った。
ホテルのスイートルーム。4人は軽食をつまみながら、ささやかな打ち上げをしていた。
世界大会を制した日本代表――その実感が、じんわりと胸に広がっていく。
「でもさ……最終戦は、あれ、NOVAじゃなくて遥で戦っていたって感じだよね。」
「堂々としていて、輝いていたわ。」
美月が真剣に頷く。
「うん。NOVAじゃなくて、“遥”が戦ってた。俺、感動したよ」
YUTAの言葉は静かで、けれど重みがあった。
その空気を、Hare Showがわざと大げさに切り裂く。
「はーいはーい! 世界一エキストラ、NOVAちゃん! いや、“遥ちゃん”かな? 拍手~!」
翔太は、お面を叩いてふざけてみせるが、その裏で心臓が跳ねている。
「……な、なんか照れるな」
遥は苦笑いで受け流し、場はまた笑いに包まれた。
◇ ◇ ◇
談笑の中で、話題は自然と今回の大会を振り返るものへと移っていった。
「結局さ、あの不正ツール事件みたいなのって、日本だけじゃなくて、他の国でも同じことが起きてたってことだよね」
美月がグラスを傾けながら言う。
「まあ、でも国家の陰謀とか、そんな難しい話じゃないだろ。単に、どこも同じバグにやられてただけじゃね?」翔太があっけらかんと答える。
「……そうだといいんだけど……」遥は曖昧に笑った。
「でもまあ、全部まとめて“世界はややこしい”ってことだよね」
「いや軽いな!」翔太がツッコミを入れ、全員が吹き出した。
その横で、美月が一人、唇を尖らせていた。
「何よ……スポーツベッティング、中止になったんだから」
「えっ、美月さん、賭けてたの?」
翔太が目を丸くすると、美月は開き直ったように胸を張った。
「当たり前でしょ! 日本代表に! しかも倍率6.8倍よ!? 勝ったら、マンションのひとつくらい買えたのに!」
「残念だねぇ~、勝ってもノー配当。人生ってそういうもんだ」
Hare Showが芝居がかった口調で肩をすくめ、部屋は再び大笑いとなった。
こうして、4人は勝利を喜びながらも青春らしい他愛ない夜を過ごした。
◇ ◇ ◇
翌日。各国のプレイヤーがそれぞれの帰路につく朝。
「それにしても、彼いつまであのお面かぶっているのかしら?」
「あれじゃ、出国手続きできないわよ。」
美月が呟く
「またVBLで再会しよう!」
「次はもっと派手に勝つから!」
それぞれが思い思いに約束を交わし、手を振り合った。
遙の胸には、不安よりも未来への期待が灯っていた。
◇ ◇ ◇
一方その頃、WVBL本部の会議室。
大会の全記録がサーバーから抽出され、重厚な会議室の大型ホログラムに映し出されていた。
Xとイーグルは、幹部たちを前にして、これまでの報告を行った。
「これは偶然じゃない。アル=ナジール共和国を起点に、各国に“意思操作アルゴリズム”がばらまかれている」
イーグルの声は低く、怒気を含んでいた。
「ゲームの名を借りて、人間の精神を書き換える……そんな行為、バスケットボールの神髄を愚弄するものだ!」
本部幹部は険しい顔で応じた。
「我々は一切関与していない。だが、原因の一つは理解している。――VBLの“メンタルパラメータ”だ」
「……!」Xの目が鋭く光る。
幹部は続けた。
「メンタルの成長が、リアルに影響する。それがシステムの強みであり……同時に、悪意ある者の標的となった。よって我々は、その機能を廃止する方向で検討している」
「待て!」
Xが声を荒げた。
「そのシステムがあるからこそ、VBLは人々に意味を持つんだ! NOVAたちが証明しただろう! 闇を跳ね返したのは、彼女たちの心の力だ!」
イーグルも拳を握りしめる。
「だが、このままではバスケットボールそのものが汚される!」
イーグルの声は怒りに震えている。
二人の視線は交錯し、会議室の空気が張り詰める。
――アル=ナジール共和国。
砂漠に築かれた小国。その背後に、各国の意思を揺さぶる黒幕の影がある。
全ての糸口は、そこに。
「まだ終わりじゃない」
Xは小さく呟き、ホログラムに映るNOVAたちの笑顔を見やった。
V.B.L Ⅲ -Virtual Basketball League- | 第三部 世界大会と国家の闇 蒼井 理人 @FebKin
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