第3章 対ドイツ戦/対中国戦

 アリーナに轟くブザーとともに、日本の2戦目――ドイツ代表とのゲームが始まった。


 対峙したドイツは、まるで軍隊のように無駄のない整列でコートに立つ。

 全員が同じ呼吸で動き、パスもスクリーンも教科書そのもの。シンプルながら隙がなく、重厚な壁のように立ちはだかる。


 「正面から突破は……ちょっと骨が折れるな」

 YUTAが小さく呟いた。


 開始直後、日本はその組織力に苦しむ。NOVAの突破は徹底的にダブルチームで潰され、QUEENのドリブルも巧みにコースを限定される。

 Hare Showがノールックで放ったパスも、相手の完璧なローテーションに読まれ、スティールされてしまった。


 「まるで、プログラムされた動き……」

 YUTAは眉をひそめる。


 しかし、彼らのプレイにはある種の「硬直性」があった。すべては定石通り。予測不能なイレギュラーには対応が遅れる。


 「なら、崩すのは――自由だ」

 NOVAの瞳が輝く。


 次の攻撃、Hare Showがあえてリズムを崩すドリブルを仕掛ける。突然のエルボーパス――背中から放たれたボールが逆方向に弾かれ、虚を突かれたドイツの守備が一瞬乱れる。

 そこへQUEENが切り込み、レイアップ。さらにNOVAがリング下で粘り、オフェンスリバウンドを押し込む。


 「ナイスだ、みんな!」

 YUTAの指示が冴え渡り、日本の連携は次第に流れを掴んでいく。


 最後は、NOVAのスピンムーブからのフィニッシュ。自由で独創的なプレイは、堅牢すぎるドイツの組織を打ち破り、日本が勝利をもぎ取った。


 「……教科書通りの守備じゃ、読み切れない動きもある」

 YUTAの声に、QUEENも誇らしげに笑った。


 ◇ ◇ ◇


 そして次に迎えた中国戦。

 相手はドイツとは正反対、強靭なフィジカルを誇る個人技の塊だった。


 「来いよ!」と吠えるパワーフォワードがNOVAを吹き飛ばし、QUEENのドリブルには重い体で圧力をかけ、Hare Showのフェイクも力ずくで跳ね返す。

 開始数分でスコアは大差。観客席からも「日本、ここまでか」とざわめきが広がる。


 その瞬間だった。

 中国のガードプレイヤーのアバターが、急にぎこちなく動きを止めた。まるでプログラムが暴走し、オーバーヒートした機械のように。


 「……何だ?」

 会場がざわつく。


 次の瞬間、そのアバターは完全に静止し、虚空を見つめたまま動かなくなった。運営が慌ただしく駆け寄り、棄権のアナウンスが下される。

 「中国代表、プレイヤーの体調不良により続行不能――勝者、日本!」


 勝利のアナウンスにも、誰も声を上げられなかった。


 YUTAは息を呑む。

 ――かつて、自分が不正ツールで心を壊しかけたときの、あの感覚。

 強制的に意識を引っ張られ、身体が言うことをきかなくなったあの瞬間と酷似していた。


 「いまの……人の思考からの動きじゃなかった。」

 YUTAは唇を噛む。

 「強制的にアバターを操作されて、リアルの意識が持っていかれた……そんな感じだった」


 「あれって、日本だけの事じゃなかったの?」

 QUEENの声は低く、震えていた。


 その線の先にあるものは、ただの不正ツール事件ではない。

 各国でも同じようなことが、行われている。しかも国レベルで――。


 彼らは、VBLを汚す、そして存続をも揺るがす何かが起こっていることを感じる。


 NOVAは強く拳を握る。

 「……勝ち進めばわかる。」


 その瞳には、恐れよりも決意の炎が宿っていた。


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