第2章:初戦 ― 対ロシア戦

 世界大会、日本チームの初戦は、ロシア代表だった。

 アリーナの大スクリーンに両チームのメンバーが映し出されると、観客席からは重々しい歓声が響いた。


 ロシアのアバターはいずれも長身で、鎧のようなボディスーツを身にまとっている。

 表情は硬く、まるで仮面の兵士。立ち姿からして、威圧感を放っていた。


 「なんか……ロボットみたいだね」

 Hare Showが小声で漏らす。


 「気を抜くな。フィジカルじゃこっちが劣る。スピードと連携で勝つしかない」

 QUEENが冷静に返す。


 遥――NOVAは深く頷いた。

 (ここからが、本当の世界なんだ)


 ゲーム開始のブザーが鳴る。


 ◇ ◇ ◇


 序盤、日本代表は軽快な動きで主導権を握った。


 QUEENが華麗なクロスオーバーで相手を抜き去り、鮮やかなレイアップを決める。

 「ナイス!」とNOVAが声をあげ、すぐさまディフェンスに切り替える。


 YUTAは冷静に全体を見渡し、瞬時に指示を飛ばした。

 「右! NOVA、下がって! QUEEN、スイッチ!」

 的確な声に導かれ、3人が機敏に動く。


 Hare Showは持ち前のフェイクを駆使してロシアプレイヤーを翻弄し、隙を作り出した。

 「へっへっへ! こっちは空いてるぜ!」

 声を張り上げながらノールックパスで繰り出し、QUEENが即座にシュートを沈める。


 序盤のスコアは日本がリード。

 観客席からは「速い!」「日本らしい!」とどよめきが起きた。


 ◇ ◇ ◇


 しかし、ロシアは沈黙していた。

 誰一人として感情を見せず、無機質な動きでコートに立っている。


 ――そして、流れが変わった。


 ロシアのディフェンスが一斉にスライドし、完璧な陣形を組んだのだ。

 まるで事前にプログラムされたかのような連動。

 NOVAがカットインを仕掛けても、ぴたりと二人が立ちはだかる。

 Hare Showのフェイクにも、一瞬の迷いすら見せず反応してきた。


 「……おかしい」

 YUTAの目が細まる。


 通常の人間の判断なら、ほんのわずかでも遅れや、反応の揺らぎがあるはずだ。

 だが彼らは一糸乱れず、完全にシンクロしている。

 「これじゃ……まるでプログラムだ」


 QUEENがシュートに持ち込もうとしても、ブロックが寸分違わず飛んでくる。

 観客席もざわめき始めた。

 「ロシア、何なんだあれは……」

 「動きが機械みたいだ」


 ◇ ◇ ◇


 それでも、NOVAたちはあきらめない。


 「まだだよ!」

 NOVAが叫び、体をぶつけながら強引にペイントエリアへ切り込む。

 ブロックが迫る。だが直前でボールを後方に弾いた。

 「YUTA!」


 受け取ったYUTAは即座にHare Showへパス。


 NOVAが外に開き、YUTAがスクリーンをかける。

 再びNOVAが駆け上がり、ボールを受けとりステップバックでシュート。


 ボールがリングを貫いた。

 観客席から歓声が爆発する。


 「よし、もう一本!」

 QUEENの声にチームの士気が上がる。


 ◇ ◇ ◇


 終盤、スコアは拮抗していた。

 ロシアの機械的な守備に苦しみながらも、日本は速攻と連携で応戦。


 残り数十秒。

 同点で迎えた最後の攻防。


 「ここだ!」

 NOVAが外に開き、Hare Showが、強引に切り込みシュートの素振りから、ビハインド・ザ・バックからエルボーで弾き、外にいるQUEENにパス。

 そこでQUEENがノーマークでスリーを放つ。


 放たれたシュートは美しい弧を描き――ネットを揺らした。


 ――ブザー。


 日本代表、初戦勝利。


 歓声と喝采の中、NOVAたちはハイタッチを交わした。


 ◇ ◇ ◇


 だが、YUTAの胸には違和感が残っていた。


 「ロシアの動き……あれは人間の反応じゃない」

 声に出すことはせず、心の中で呟く。


 ――まるでプログラムが操作しているかのような、完璧な連動。


 それはただの強敵との戦いではなく、これから訪れる“何か”の序章に過ぎなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る