母が持って来たもの
一郎丸ゆう子
第1話 母が持って来たもの
結婚して新居に移った。正直、ほっとしていた。モラハラモンスターの母と離れられたから。
が、モンスターはやってくる。招かなくてもやってくる。それがモンスター。
「持ってきてやったよ」
そう言って母がテーブルの上に置いたもの、それは、高校の卒業記念にもらった”文鎮”と”校歌が入ったレコード”。
脳内が、クエスチョンマークでいっぱいになる私。
(?????????????)
なぜ? なぜ、それを持ってくる? 千歩譲って文鎮は何かに使えるかもしれない。でも、レコードはどうよ!?
CDでもなく、レコードなんだけど、うちプレーヤーもないんだけど。だいたい卒業してから校歌のレコード聞いてる人っているの?
これは、何かの嫌がらせだろうか。だけど、母は持ってきてやったよオーラでキラキラしてる。この迷惑なおみやげの見返りに何か求めてるんだろうか。そういう人だ。
「なんで、そんなもん持ってくんのお!」
って普通の人なら切れるんだろうか。当時の私は出来なかった。母がモラハラモンスターであると同時に、ヒステリーモンスターだったから。
モンスターと離れて、しばし安堵の境地のぬるま湯にに浸ろうとしていた私に、このふたつの贈り物がバケツ一杯分くらいの冷水で水を差してきたのだ。
そういえば、高校の校歌ってどんなのだったっけ。全然思い出せない。思い出そうとすると、小学校の校歌が脳内でリピートされる。
なんだこの歌詞。言葉が古い。当時は意味もわからず言われるがままに歌っていたっけ。
高校生になると、純粋さが薄らいで、世の中の不条理に気付きだし、なんで校歌歌ってるんだろう? なんて考えだすから記憶に残ってないんだろうか。
そして、その世の中の不条理を今の今目の前にしている私は、ただ黙って文鎮とレコードを箪笥にしまったのだった。
断捨離をするたびに、この文鎮とレコードと思い出せない歌詞にイライラさせられている。
このイライラをひとつ解消するため、何十年前に卒業した母校のホームページを開き校歌を探してみた。
おお、なんと音声で聞けるじゃないか。文明は進化している。
再生ボタン、クリック。
ああ、そうだ、これだ、この歌詞だ。生徒たちが歌っているらしい。男女の混声。
若さは感じるけど、素人の高校生。正直上手いわけでもなく、歌わされてるよねえ、と思ったら、なんか気持ち悪くなってきた。
久しぶりに出してきたレコードの端に文鎮を置いて、文鎮を持ち上げながら
「この重荷を下ろそうね」
って呟いた。
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