第2話 パチンコ店でのトラブル

 ジャラジャラと玉を弾く音に、爆音の音楽の中で李光人は絶望のただ中にいた。30分も掛からずにバイト先で全財産3千円をすってしまったからである。李光人のバイトそれはパチンコである。ホールでの労働ではない。パチンコを打って生活費を稼ぐことをバイトと呼んでいた。初めは順調に玉を増やしたものの、失うのにはわずか5分。それがパチンコというギャンブルである。

「ふざけんな!この台、回収台だろ!」

 李光人は台に問題があるかのようにバンバンと叩く。

「お客さん。なにやってるんですか?因縁付けるのは止めて下さい。警察呼びますよ。」

「・・・・・・・糞が!」

 店員に注意され、悪態をつくが、こんな事は日常茶飯事の店員は相手にしなかった。

「ふざけやがって・・・・・。」

 ふと、後ろを見ると60代と思しき高齢者が大勝ちしている。このままでは帰れない。それもその筈、今月あと10日を何も食わずに過ごさなくてはいけないからだ。

「おじさん。おじさん。」

「うん・・・、何?」

「玉を少し借りる事出来ませんか?」

「駄目だね。」

「お願いします。一文無しなんです。こんなに出てるんだから、少し融通してくれても良いじゃないですか。」

「知るか。文無しがパチンコやるなんて100年早い。ちゃんと働け。」

 その言い草に李光人はカチンときた。

「なんだよ、その言い草は。俺達若いもんが収めてる税金を、お前らが社会保障費として食いつぶしてるんだろうが。お前らが働け!」

 それを聞いた高齢者は顔色を変えて、掴みかかってくる。

「この餓鬼が!」

 李光人も応戦する。

「ケチな糞じじいが!」

 取っ組み合っていると、パチンコ屋の店員が飛んできて李光人の胸倉を掴み、店の外まで引きずり出す。

「おい、お前。パチンコに負けたからって、周りに当たり散らすならただじゃおかねえぞ。」

「あの、爺さんが俺に掴みかかって来たんだろうが。」

「お前知らねえの。パチンコ屋にとって、年金生活者は神様なんだよ。全部うちに吐き出してくれるからな。それを邪魔するならお前、ただじゃ済ませねえぞ!」

「・・・・・・。」

 パチンコ屋の店員は強面で、李光人の胸倉を掴む力も強い。とても勝てそうになかった。沈黙する李光人。その時だ。

「おい、お前。何やってるんだ。」

 李光人は声を掛けられた背後を振り向く。

「・・・・竜也さん!」

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