第4話 真力
今にも吹き飛びそうな意識を必死につなぎとめる。
――マリョクを託すって…
『一時的だがおまえには我のマリョクが宿るだろう。
そのマリョクを使ってこの場を切り抜けろ』
――…マリョクなんぞ全く扱ったことない俺にうまく使えるのか?
『…そうか。
おまえは生まれながらにマリョクの素養がないな』
――……
『…安心しろ、マリョクと共に我の意識もお前に宿る。扱い方は心配ない。
だが…我のマリョクはニンゲンにとっては少し特殊な性質が故に何が起こるかは全く予想がつかない。
それにおまえからは全くマリョクを感じない。』
『下手をすれば命を落とす可能性もある。
だがこの場を切り抜けるにはこれしかない。』
――…
『それでも―やるか?』
「…や…るよ」
俺は意思を示すために震える唇から声をしぼりだす。
―この際やれることなら全部やってやるよ
いつ死んでもいいとさえ思っていた。
ただの人として生まれて半端なニンゲンとして扱われ…この世界に既に居場所はないと思ってた。
それでもこうやって生き残る為に必死にしがみつこうとしている。
死に瀕して初めて、確かに生きたいと思う自分の意思に気づいた。
だから―このまま死ぬわけにはいかない。
『―いくぞ』
スナックは発光して姿を消した。
かと思うと、身体の奥から熱が湧き上がり手足の感覚が戻ってくる。
―これが…マリョク
左手の甲が灼けるように熱い…
気が付くと手の甲には小さな傷跡…なにかの裂け目のような痣が浮かび上がっていた。
身体中を駆け巡る血液とは違う感覚。
体の芯に確かなチカラが宿ったことを感じると共に、全身に手の甲と同じ小さな痣が増えていく。
『思ったより拒絶反応がかるくて助かったな。』
「すっ…すごい
これがマリョクか…!」
――"生まれて初めて感じるマリョクの巡り"――
…………――――
『…ほおけてる場合ではないぞ!
奴が来る』
――!!
脳内に響いたスナックの声で白い影に向き直る。
目線を合わせた瞬間、白い影は飛び上がってこちらに突っ込んでくる。
その体はふわりと浮かび上がり俺の体に覆いかぶさるように落ちてくるが…
「まじかよ…」
部屋に飛び込んできたときはジェット機のような目にも止まらない途轍もない速度だった白い影は、
今の俺の目には打ち上げた野球ボールのようにスローに見えた。
『落ち着け。お前は今、我と繋がっている。』
「こ…これなら…」
『戯けるな、今のうちに逃げるぞ。
間違っても戦おうなんて思うな。』
スナックが淡々と話す。
『あくまで一時的なチカラだ、ここで戦闘を始めて戦闘中にチカラが消えたら取り返しがつかなくなる』
「くっ…!」
―倒さず逃げることで被害が広がる?
―いや、むしろ戦うことで被害が広がるか…
―それに日本の警察ならすでに事態を把握して出動してるか
―仮に他の誰かを襲ったとしても大多数はただの人では無いだろうし、俺と違って死にかけることは無いか…?
一瞬の逡巡の後、飛び込んできた化け物をかわし、
その勢いのまま――外へと飛び出した。
あ、やべ
あまりにも考えなしに"全力で踏み込んで"窓を目指した俺は、
窓の上方の壁を大きく抉りながら外へ吹っ飛んだ。
足元のはるか下には俺の住むハイツの裏手にある空き地が広がってる。
『売り土地』の看板がまるで豆粒みたいに小さくみえ、それを視認すると同時に体全体にとてつもない浮遊感を感じる。
「跳びすぎだろおおお!」
『ふむ…ずいぶん跳んだな。
わりかしやるじゃないか』
「のんきなこと言ってる場合かよ!
落ちるウウウ!!」
焦る気持ちとは裏腹にどんどん迫る地面。
高いとこから落ちた時は……
ご…五点着地だっけか
どどどど、どうやるんだっけ
『踏ん張れ、この程度の高さなら問題ない』
「踏ん張ればなんとかなるのかよ!?」
せめて全身にダメージを分散させてやわらげよう。
五点着地しかない!
―ドザザザザ!!
とてつもない音をたてて俺の体は地面に接触した。
…少し土ぼこりが舞ったが、俺の体はチカラの反動で浮き出てきた小さな痣以外は全くの無傷だった。
――……あと五点着地した衝撃で服がズタズタになった。
『だから問題ないと言っただろ。』
「……」
心なしか姿を消したはずのスナックの冷たい視線を感じる。
「…と、とりあえずあいつは?」
少し反省しつつ現在迫っている危機に意識を向ける。
そしてチラッと白い影の方に目を向けた刹那、
視界に白い影の姿を捉えると同時に奴が飛び込んでくる。
『はしれ!』
「…!」
その声に反応して反射的に足が動く。
駆け出した背後でドカンととんでもない音がなったが俺は構わず走った。
………
……
…
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