第8話

 休みの日には一緒にお出かけをした。まだ私が働いていた時期によく行っていたカフェやレストラン、好きなブランドのお店など、すべてを絢香に教えた。絢香は都合よくこれを「私にだけ教えてくれる優しい人」と捉えてくれた。

 本当に弱っている人はちょろいな、なんて今までの私なら絶対思わなかったであろうことを思ってしまった。それと同時に笑みがこぼれる。ほんとの私ってこんなに醜かったんだ。私を陥れたあの後輩と何ら変わらないじゃないか。所詮人はみんなこんなもんなのだ。そう思ったら気が楽になり、絢香との上辺だけの関係にも心が痛まなくなってしまった。


「ねぇ絢香?私のこと好き?」

「何言ってるの!当たり前だよ!」

 たまに挟む。私の下がり切った自己肯定感を少しでも満たすため。

 でも、まさかこんなにうまくいくなんて。本当によかった。

「そっかよかった。……このパンケーキおいしい。一口あげる。ほら、口開けて?」

 私は絢香のことを好きとは思っていない。絢香に私のこと好き?などと聞かれたときにはどう答えたらいいかわからないからさっと物理的に口を封じた。


 私は絢香のこと、都合のいい女の子としか思ってないよ。

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