死神とスカート
織倉未然
第1話 ぼくはスカートを履く
ぼくは男だ。
だが今日もスカートを履く。
思いっきり短いヤツを。
足がすうすうするが、それも慣れた話だった。
どうせ死神のロングコートを羽織れば、大して気にもならなくなる。
この仕事に就いて、独り立ちしてからもう数年が経つ。
正確には五年。
それだけあれば、死神としての基本的な仕事は任せてもらえるようになる。ちょっとは頼りにもしてもらえる。
〈マシン〉の予報通りに対象に会いに行き、
聞いて、記憶し、然るべき相手――それは家族だったり、教会だったり、役所だったり、墓石屋だったりするが――まあとにかく、そういう人たちに伝えること。
歯車が超高速で相互回転し、蒸気がところ狭しと駆け抜ける現在においても、こういうアナログさは必要とされているのだ。
昔みたいに、魂を刈り取ったりというのは、今はやらない。できなくはないが、やらない。別にぼくらがやらなくてもよくなった、ということもできる。というか、そっちの方が事実だ。
物質をすり抜ける死神の鎌は、ぼくらの専売特許じゃなくなって久しい。
このあたりを簡単に説明すると、「死神の鎌は専門家たちに十分解析されて、魔法剣技術として確立されました」って感じになる。
地元のチンピラから、背伸びしたガキンチョ、宮廷魔術師まで、魔法剣を持っていない奴はいない。みんな物質のソリッドネスを無視して攻撃する術を知っている。
だから何だって?
死神は業務形態を大きく変えた。死それ自体が大きく変わったのだから、仕方がない。ぼくらは死をもたらすものではなく、ただ死を告げて、あるいは今際の際に立ち合い、粛々とそのひとが生きた証を言葉として残す者となった。
そういうある種一大イベントの立会人だ。
化粧もするし、オシャレもする。
だから、ぼくは、今日もスカートを履く。
死神とスカート 織倉未然 @OrikuraMizen
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