カースト一位の陽キャ女子は、俺の前でだけ陰キャになる
フー・クロウ
第1話 白鷺繭
「ねえ、昨日の恋マジ観た? あそこで告白とかありえないよねー」
「やば、マスカラ落ちてる」
「っていうか、今日駅前のパンケーキ屋行かない?」
クラスの真ん中で、カースト上位に属する女子グループが今日もデカい声で話している。
しかも、全く会話が成立していない。
しかし、各々話したいことを話しているだけなのにやけに楽しそうなのが、陽なる者のスペシャルスキルだ。
ヤツらは、なんかよくわからんけど楽しけりゃOKの世界線で生きている。
「あー、ごめん。私、今日もバイトなんだわ!」
「えー、繭バイトしすぎじゃね?」
その中心で、一際目を引く美少女が手を合わせて謝っている。
名前は、
明るめの茶髪ショート。化粧は薄目に施されているが、あまりにも整った顔立ちと天真爛漫な愛嬌のある性格で学年でトップレベルに可愛いと評価されている女子だ。
「大体どこでバイトしてんのか、今だに教えてくれないしさー」
「まあ、そういうミステリアスなとこも私の魅力っていうかー?」
「あははっ! 何それー!!」
……そりゃまあ、どこでバイトしてるかなんて言える訳ないよな。
アイツも毎日毎日、ご苦労なこった。
◇◇◇◇
学校が終わり、直帰。
そのまま自室へ突っ込み、ベッドで漫画を読む。これが俺の幸せルーティンだ。
そして、もう一つ俺の生活サイクルに強制的に組み込まれていることがある。学校の男子が知ったら死ぬほど羨ましがられるだろう。下手したら、殺害予告まで届くかもしれない。
ただ、それは実情を知らない者達の幸せな嫉妬だ。一度、この役目を変わってみたらいい。
"ガチャッ"
「はぁ……」
「繭、せめてノックしろよ。当たり前のように部屋入ってくんなって」
「はぁ……あー。はぁ……」
「ため息で返事すんな」
自室に学年の一の美少女がやってくる。
そんな人生に一度あるかないかの最強イベントは、俺の日常となっている。
繭は負のオーラを背負いながら、そのまま座り込んだ。
「疲れた……学校行きたくない。人と話したくない……」 (ボリボリ)
「そうか。その煎餅俺のだから勝手に食うな」
「何、パンケーキって。あんな甘ったるいだけの高い食べ物をフワフワした空間で食べるくらいなら、修也の童貞臭い部屋で煎餅齧ってる方がマシだよ……」
「わかった、喧嘩売ってんだな。表出ろ」
俺、
家は隣。小中高と同じ学校に通い、全て同じクラスというミラクルをかましている。
兄妹同然のように生きてきた俺達は、お互い男女として意識してしまうお決まり思春期イベントが発生することもなく、今でも当たり前にお宅訪問する仲だ。
「ひどいよ、修也。私、こんなにも憔悴しきってるのに……」
「毎日のことだろ。そんなに疲れるなら、あんなキャラやめちまえよ」
「む、無理だよ!! 素でいったら、ノリ悪いってハブられるもん!!」
「そしたら、他の女子グループ行きゃいいだろ」
「やだ! 何もせずジッとしてたらあっちからなんか話しかけてきて、勝手に友達になってくれた私の最高の友達なんだよ! 何の努力もせずぼっち飯回避できたのはあの娘達のおかげなんだから!」
コイツ、最高の友達の基準狂ってるな。
そいつらと友達になったせいで、友達作る以上の努力を強いられているのに気づいてないのか?
「じゃあ、せめてバイト忙しいキャラやめろ。バイトしてねえくせに」
「でも……今さら言い出せない」
「"陽キャってなんか毎日バイトしてるよね"、ってイメージってだけでキャラ作るからそうなんだよ。いっそ、本当にバイト始めたらどうだ?」
「それは、無理。修也は、私に死ねって言うの?」
言ってない。
ニートの極みみたいな発言してくんな。
「私、将来引きこもりになりたい。私の世界から出たくない」
「親が聞いたら、泣くぞ」
「起きたら夕方でー、修也の部屋に来てお菓子食べながら漫画読んでー。完徹でゲームやってー、お日様出てきたら就寝。毎日、毎日……なにそれっ! 幸せの極みっ! ふへ、ふへへへへっ」
笑い方が気持ち悪い。
学校では、バカの一つ覚えみたいに「ウケるー」しか言わねえからな。一度、コイツの本当の笑い方を皆に見せてやりたい。
「そもそも、それを俺の部屋でやるなよ。俺は普通に将来仕事するぞ」
「……っ!? な、なんで!?」
「衝撃発言とかしてねえから。俺がおかしいみたいな雰囲気出すな」
「う、裏切り者っ!! 一緒にニートやろうよ!!」
……こんなくだらない話題で、本気でピーピー騒ぎ出した。
白鷺繭は、明るくて可愛い。
笑顔を絶やさず、ノリがいい。
活発で、ポジティブで、太陽のようだと崇めるヤツさえいる。
……とんでもない。
これが、皆が憧れる人物の本性だ。
白鷺繭は、生まれ持ってのド根暗娘である。
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