風光る

ヒロ

風光る

僕の時間は、11秒で決まる。


君はいつも僕を追っていた。

コンマ秒の世界で、僕の一歩を追う君がいた。

たかだか11秒の中で、君との距離に怯え続けた。


立っていたのは鏡の前。

競技場の横を、うつむき歩いたあの日。

負けた日、後ろを見なかった僕。

君は、いつも背後にいたのに。


涙が堰を切った。

それから僕は、一歩を縮めるためだけに生きた。

朝の公園、雨に濡れた靴、悔しさで破れたノート。

すべてはあの日に染めた。


スタートの音。

金曜日、晴れ。あの日と同じ空気。


走る。

風を切る。

君の背中に並ぶ。

離される。心が揺れる。


「またか…」

頭の中で誰かの声が響く。

なぜ頑張る?やる必要ある?明日頑張る?


焦げ付く体。

呼吸は浅く、思考は溶けていく。


後ろから、風。

鼓動が背中を押す。

僕の意思じゃない。

身体が、心臓が、まだ先があると告げる。


君に追いつく。

表情がわずかに揺れる。

その一瞬が、僕を前へ運ぶ。


なぜ頑張る?やる必要ある?

いや、今日塗り替える。

ただ、あと一歩――その一歩だけでいい。


鏡の前の僕を追い越す。

風が光をまとう。

止まった時間が、今、静かに動き出す。


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風光る ヒロ @hiro0717

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