第二十一話 溺れる


「――随分、熱烈な告白ですね」

「......はい?」


アイリスは首を傾げた。なんだかつい先ほどもこんな風にした気がする。


「息をしなくても結構です。あなたの息が止まったら、俺があなたに息を吹き込みますので」

「......常に人工呼吸をすると?」

「お気に召さなければ、そのような魔術を開発しましょう」

「......そんな魔術、需要がありませんよ」

「それであなたが生きるなら、十分では?」


アイリスは思わず、笑ってしまった。真顔でとんでもないことを言い出すこの男が——ひどく、愛おしかった。


「......莫迦な方。ほんとうに、莫迦な方」

「先程から想い人に対する言葉が辛辣ではありませんか」

「おも」

「想い人ですよね? あなたは俺を愛しているのでは?」


アイリスは真っ赤になった。レイはあぁ、と手を打つ。


「想いが通じた場合は、恋人の方が適切でしょうか」

「っ、知りません!」


アイリスは布団にもぐりこんだ。


「隠れないでください」

「あなたのせいです」


レイは小さく笑い、布団に顔を近づけた。


「――襲いましょうか?」

「っ!?」


アイリスはすかさず飛び起きた。


「冗談です」

「......私で遊ばないでください」


レイは微笑み、アイリスの手に口づけた。


「アイリス。どうか、俺と生きる未来を選んでくれませんか」


アイリスは顔を背けた。


「......私を殺せと命じられたあなたが、どうやって私と生きようと言うのです」

「いくつかプランはありますが、どれがよろしいですか?」

「......は?」

「国外逃亡、公爵の暗殺、新王陛下による暗殺命令の取り下げ依頼の三種類ございますが」

「......本気で、仰っているのですか」

「はい」

「王位継承権第一位の私を——アルビノの私を攫うと?」

「お望みとあらば」

「筆頭公爵を、殺すと?」

「あなたがそうお望みなら」

「国王陛下に依頼を話せば、サザーランドの諜報の価値は落ちるでしょう。それでもやろうと?」

「あなたが生きるためならば」


レイの瞳はどこまでも澄んでいる。それでこの男が本気なのだと知れた。


「私の為に……全てを捨ててもいいと仰るの?」

「はい」


――この、男は。


「......レイ」

「はい」

「私は、あなたの愛に溺れてもいいのでしょうか」


レイは目を見開いた。ややあって笑う。雪の中で開いた花のように、鮮やかな笑みだった。


「押しつぶされないように、お気をつけください」


——それから1年が過ぎる。



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