第27話 舎弟『一号』
「今まで嘘ついててスマン。
俺の名前は、佐藤太一。
しがない元社会人だ」
唖然とするみんなに、改めて自己紹介する。
だが、彼らからの反応はない。
時間が止まったように、完全に固まっている。
(あれ、聞こえてないのか?)
「俺の名前は、佐藤――」
「聞こえてる、聞こえてる。
ちょっと、脳の処理が追いついていないだけよ」
ソフィアさんが頭を抱えながらそう言った。
「そうか」
ちゃんと聞こえていたようだ。なら、彼らの脳内ロードが終わるまで静かにしていよう。
『Now Loading × 18』
30秒後。
「……つまり、あなたがあの佐藤太一ってこと?」
ソフィアさんはやっと理解したようだ。
目の前に立っている男が、今、世界中で話題になっている『人類初の迷宮攻略者』ということに。
「そうだ」
俺がうなずくと、他のメンバーもようやく現実に追いついたらしく、急にキラキラした目をして詰め寄ってきた。
「すげぇ、ホンモノかよ!」
「だからめっちゃ強いのか!」
「いや、中ボスを1発KOはやりすぎだろ!」
ミゲルを除く全員が、興奮気味に口々に叫ぶ。
だが、俺は聖徳太子ではない。
一度にそんなに話しかけられても、全部に返事なんてできるわけがない。
それに、
「ちょっと、待ってくれ。
一旦、村へ帰ろう。
そこでもう一度、皆に自己紹介するから」
ここはまだ迷宮の中。
大丈夫だとは思うが、何が起こるか分からない。
まずは全員、生きて帰ることが最優先だ。
しかも、すでに『俺(+18人)の実名入り中ボス討伐通知』は全世界に送られているはずだ。
村に残っている人たちも、俺と仲間たちの名前を見て気づいているだろう。
「あいつ、佐藤太一だったのか!」と。
どうせなら、全員の前でまとめて自己紹介した方が早いし楽だ。
「そ、そうね!
一旦、村に帰りましょう」
我に帰ったソフィアさんが、力強く号令をかける。
ひとまず、帰宅だ。
行きはよいよい、帰りはもっとよい。
もう実力を隠す必要もなくなったので、出てくるゴブリンをすべて一瞬で片付けながら進んでいった。
結果、驚くほどのスピードで帰路を突き進む。
ルナリアには引き続き警護を頼んだ。
彼女ほど頼りになる支援役はいない。
本当に助かる。
ミゲルはというと、
あれから一言もしゃべらなかった。
俯いたまま、静かに俺たちの後ろをついてくる。
まさに「ちんまり」という言葉がぴったりだ。
少し、心配だな。
まぁ、そんなこんなで、俺たちは日が落ちる前に無事、村へ帰ることができた。
案の定、村は大きな騒ぎとなっていた。
しっかり通知が届いていたようだ。
==========
佐藤太一さんとミゲル=エルマンさん、ソフィア=エルマンさん、その他17名が☆1ダンジョンの中ボスを倒しました。
==========
ひとまず、俺は予定通り、自己紹介を行う。
――結果は、
「マジかよ!
中ボスを1発で倒したのか!」
「☆2ダンジョンの話も本当のことだったんだな!
一部のやつらがネットで「佐藤太一は迷宮攻略していない!」って騒いでいたけど、あいつら何も分かってないな!
俺は、あんたが攻略したと信じてたぜっ!」
「☆2ダンジョンの話を聞かせてくれよ!
ラスボスはどのくらい強かったんだ?」
「え、ルナリアちゃんエルフだったの!?
うわ、耳ながっ!
ほんとにエルフじゃん!
え、めっちゃかわいいんだけど!」
ビックリするほど大人気。
(やべぇ、ぜんぜん解放してくれねぇ!
一応、俺、迷宮帰りだぞ!
別に疲れてないけど、休ませてくれ!
頼む!)
そう思いつつも、俺はなんだかんだ律儀に答えた。
俺は、しがない元社会人である。
質問されたらちゃんと答えてしまうのだ。
ルナリアがエルフであることも説明した。
俺が亜人と一緒にいることはすでに世界中にバレているので、隠し通すことはできない。
みんな、生でエルフを見るのは初めてらしく、目を輝かせて大興奮していた。
「……ムフフ」
ルナリアも、まんざらでもない様子。
幸せそうでなにより。
(あ、そういえば――)
ちょうど会話がひと段落したところで、俺はふと大事なことを思い出した。
「すまない。
ちょっと、スマホを確認させてくれ」
みんなに断りを入れてから、スマホを開ける。
俺が見たいのは、新着通知欄だ。
==========
☆1ダンジョン・中ボス撃破報酬
・15000000G
==========
ちゃんと、中ボス討伐の報酬が入っている。
それを確認した後、
俺は次に『
(送金機能は――お、やっぱあるな)
QRコードで、任意の金額を他人に送れる仕様になっている。PayP○yみたいな感じだ。
「ソフィアさん、ちょっと『
「『
いいけど、急にどうしたの?」
「ちょっと貸してくれ」
――ピロン♪(送金音)
『20000000G送金しました』
「――え?」
==========
《所持金》(ソフィア)
・20116202G
==========
「中ボス討伐の報酬金だ。
その金は受け取ってくれ。
ドロップアイテムについては、後でまた話そう」
本来なら、あの中ボスはこの村の人たちが倒すはずだった。
それを、どこの誰とも知れない俺があっさり片づけて、さらに報酬まで持っていくなんて筋が通らない。
だから、このお金はこの村の人たちのものだ。
それに、俺はもう十分稼いだ。
これ以上お金があっても使い道がない。
その金はぜひ、村の発展のために使ってほしい。
ちなみに、
追加の500万は口止め料みたいなもんだ。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
ソフィアさんと、そのスマホを覗き込んだ村人たちが、一斉に声を上げた。
目をまん丸にして、画面を見つめている。
「そんな、私たちはほとんど何もしていないのに!
こんな大金、貰えません!」
「あの中ボスは本来であれば、この村の人たちの獲物だった。
俺は、それを横取りした余所者。
せめて、報酬金は受けとってほしい。
まぁ、その代わりと言ってはなんだが、今日みんなに話したことは口外しないでもらえると助かる」
「……ありがとうございます」
ソフィアさんが深く頭を下げる。
それにつられて、
周りの村人たちも次々と頭を下げた。
そんなに畏まられると困る。
「じゃあ、俺はちょっと休憩させてもらいます」
ようやく、少し休めそうだ。
「あ、わたしも!」
上機嫌なルナリアも、俺と一緒に休憩に行く。
みんなと別れたあと、
俺たちは昨日買った二人用テントに戻った。
ちなみに、俺は昨日、「2つテントを買って別々に寝よう」と提案した。
お互いのプライバシーもある。
当然の提案だ。
けれど、「知らない人ばかりの村で一人になるのは怖い」というルナリアの願いを尊重して、結局、同じテントで過ごすことにした。
もちろん、ベッドはちゃんと分けてある。
誤解しないでほしい。
「村人たちとは仲良くなれたか?」
ご機嫌なルナリアに声をかける。
「うん、みんなエルフを見るのが初めてみたいで、わたしに興味津々だったよ。
それに、みんなから可愛いって褒めてもらえた」
「おお、それは良かったな」
「ねぇ……サトーはわたしのこと可愛いと思う?」
小さく首をかしげ、上目づかいでこちらを見つめてくる。どこか不安そうな声だった。
可愛いかどうかと言われれば、そりゃあ、
めっちゃ可愛い。
見た目はもちろん、性格だって明るくて素直。
少し抜けてるところもあるけど、
戦闘じゃ頼りになるし、他人思いでもある。
正直、非の打ちどころがない。
こんな子が自分の娘だったら、
パパは泣いて喜ぶだろう。
「あぁ、可愛いぞ」
俺は、自分の娘を褒めるような気持ちでそう答えた。まだ彼女すらできたことはないけど、多分これが『父性』というやつなんだろう。
「ほんと!?」
「あぁ」
「むふふっ!」
ルナリアは嬉しそうに笑い、そっと俺の隣に腰を下ろした。その笑顔は、さっきまでの不安を吹き飛ばしたように明るい。
この無邪気さ――まさに、父性をくすぐられる。
(そういえば、ルナリアの家族ってどんな人たちなんだろう?
この子、故郷に70年以上帰ってないんだよな。
家族は心配してないのかな?)
と、そんな話をしている
「佐藤さん、ちょっといいですか?」
テントの外から、ソフィアさんの声がした。
その声は、どこか申し訳なさそうだ。
「今行く」
外に出ると、ソフィアさんの背後にミゲルの姿があった。彼はバツが悪そうな顔で、チラチラと俺の方を見てくる。
どうやら、何か話があるらしい。
「どうかしたのか?」
俺がそう聞くと、
「ほら、言うことあるんでしょ。
ちゃんと言いなさい」
ソフィアさんがミゲルの背中を軽く押す。
ミゲルはおずおずと前に出てきて、視線を泳がせながらゆっくりと口を開いた。
そして、
「その――、これまでずっと生意気なことを言って申し訳ございませんでしたぁ!」
――ズザザザッ!
唐突な土下座。
急なことで、俺は思わずビックリしてしまう。
「ど、どうしたんだ急に?」
「勝負は完全に俺の負けです!
敗者として、どんな罰でも受けます!」
額を地面につけたまま、彼はそう答える。
「いや、べつに罰とか何もナイナイ。
顔を上げてくれ」
「でも――」
「ミゲルがこの村を大切に思っているのは、なんとなく気がついていたからな。
余所者に冷たくなるのも、無理はないさ。
まぁでも、お姉ちゃんを困らせるのは良くないな。
大切な家族なんだろ?
もっと大人になって、ちゃんと守ってやれよ」
俺は迷宮の中でしたときと同じように、
ミゲルに手を差し伸べる。
今度は、彼も迷わずその手を掴んでくれた。
――和解成立だ。
「じゃあ、俺はテントに戻るから」
そう言って踵を返しかけた、そのとき、
「待ってくれ!」
なぜか、ミゲルに呼び止められる。
まだ何かあるのか?
いや、特に思い当たることはない。
……と思っていたら、
次に出てきた言葉は完全に想定外のものだった。
「頼む、『アニキ』と呼ばせてくれ!」
「――へぁ?」
あまりにも予想外すぎて、すごく間抜けな声を出してしまった。
恥ずかしい、いや、それよりも。
「な、なんで?」
「なんでも何もないぜ!
アニキ、めっっっちゃカッコいい!
俺、すっかり惚れちまったよ!」
ミゲルがキラキラした目で俺を見つめてくる。
「いやいやいや」
「そうだ、俺の姉貴と結婚するってのはどうだ!
そうすれば、本当の兄貴になるだろ?
俺、天才!
アニキになら、安心して任せられるし最高だ!
どうだッ?」
「ちょっと、あんたナニ言ってんの!?」
ソフィアさんは顔を真っ赤にしながら、ミゲルの頭を軽く叩いた。怒っているというより、恥ずかしさを誤魔化すような動きだ。
(ダメだ……収拾がつかん)
その後、なんやかんやで2時間以上話し合った結果、結局、ミゲルは俺のことを「アニキ」と呼ぶことに決まった。
結婚うんぬんは、気まずいので触れなかった。
(てか、俺、ぜんぜん休めなかったんだけど!
なにこの結末!)
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