第5章 人類初の迷宮攻略者

第18話 迷宮攻略の『新着通知』

 全人類が異世界転移してから36日が経過した。


 これまでに20億人以上の人間が命を落としたが、この頃になると人々も新しい環境に慣れ始め、1日の死亡数は極端に減った。


 現在、人々は寄り添いあい、互いに協力しながら町を形成し始めている。

 もちろん、原住民たちの集落にお邪魔させてもらっている人々もいるが、原住民が住む集落の近くに転移できた幸運の持ち主は一握りである。


 基本的に、人は人で集まり、町をつくっている。


 では、人々は集まったのか?


 それは、『アイテム交換所』である。


『アイテム交換所』

・様々なアイテムが手に入る場所。

・アイテムはカネを支払って購入したり、特殊な交換券と交換することで手にいれることができる。

・人類の転移とともに、世界各地に出現した。

・見た目は、石板を持つ女性の像。

・石板に、交換可能なアイテムが表示されている。


 このアイテム交換所が、人々の新生活をサポートするとともに、町の開発を大きく加速させた。


 注目すべきは、アイテムのラインナップ。

 食料や衣服、安価な武器はもちろん、野営用品や、農業・建築用ゴーレムなど、じつに様々なアイテムを取り揃えていたのである。


 つまり、アイテム交換所の近くにいれば、ほとんど不自由のない生活を送れる。

 さらに、作業用ゴーレムを購入すれば、一気に町を建設することさえできたのだ。


――無論、『カネ』さえあればの話だが。


 そう、人類は異世界に来ても金を求めた。

 どこへ行こうと人類は貨幣経済から逃れられない。

 それが、人間という生き物なのだ。


 そしてこの世界では、モンスターを倒して手に入れたアイテムを売却することによって金が手に入る。


 故に、モンスターを効率よく倒すことができる人間ほど、大きな経済力を生む、有用な人材と評価されるようになった。


 モンスターを効率よく倒すことができる人間。

 つまり、高いステータスや有用なスキルを持つ、上位の人間のことである。


 神は、人々が互いに競争しあって強くなるために、個人の価値を表示する『i rankingアイ・ランキング』というアプリをスマホに導入した。


 このアプリには人類全員を対象にした様々なランキングが掲示されており、その中でも、個人の持つステータスやスキルを総合的に評価して順位づけした『総合ランキング』は、特に重要な価値基準となった。



 今日も今日とて、ランキング上位の『ランカー』たちは、自身のコミュニティーを発展させるために迷宮に潜り、金を稼ぐ。


 そして人々は、彼らの配信を視聴することで、人類の新たな発展・進歩に歓喜し、大いに沸き立つのであった。




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【ランキング7位:ニーナ=コロレンコ】


リンク:

i tube://watch?v=O4yb856mlP

【配信36日目】ニーナ=コロレンコの『セレーレ聖霊廟』攻略〜第2階層〜

視聴者:307,043 高評価:120.4千 低評価:700



 金色の髪が、戦いのたびにふわりと舞った。

 氷のように透き通った青い瞳が、天使の形をした怪物たちをまっすぐ見据えている。


 手にしているのは、細身のレイピア。

 氷の魔力をまとった刃が、剣を振るたびに白い霧をまき散らす。


――シュッ、シュッ、シュッ!


 少女は瞬く間に、

 周囲の天使たちをレイピアで次々と貫いた。


 刃に穿たれた天使の体は、パキパキと音を立てながら瞬時に凍りつき、次の瞬間、氷の欠片となって崩れ落ちていく。


 ――ふぅ。


 小さく息を吐いた少女は、戦いの緊張を解くように肩を回し、ニコッと笑った。


 そして、宙に浮かぶデジタル画面に向かって大きく手を振る。


「みんなー、見ていてくれたー?

 この調子でどんどん進んでいくから、

 応援よろしくねー!」


 画面の向こうでは、何十万人もの熱烈な視聴者が、彼女の笑顔に沸き立っていた。


:ニーナちゃん、カワイイィィッ!💕

:めっちゃ強いやん!最高!

:はいっ、これからもずっと応援します!

:スパチャドンッ!(10000G)

:モエコロ〜


 少女の名前は、ニーナ=コロレンコ。

 ロシアの雪原で生まれた14歳の少女である。

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【ランキング15位:神木竜司】


リンク:

i tube://watch?v=K7ra93LmZpA

【神木@陵安京の守護神】本日、中ボス戦!

視聴者:128,452 高評価:82.7千 低評価:1.2千



 幕末の武士を想起させる、黒い袴姿の日本人。

 彼は今、日本刀を構え、強敵と相対している。


 名は――神木竜司かみきりゅうじ


 異世界に来る前は、東大卒業を間近に控えた、文武両道、優秀で人望のある完全無比の優等生であった。


 そして異世界に来た後も、その類まれなる戦闘センスと人望を活かし、日本人の上位ランカーとして世界中から注目を浴びながら、新たな日本政府の立ち上げにも尽力していた。


 まさに、日本人の頂点に君臨する男だ。


「さすがは中ボス!

 一筋縄では行かないな!」


 目の前でとぐろを巻く、巨大な蛇。

 金属片のような鱗が、鈍い光を反射する。

 牙ひとつで人の腹を食い破れそうな怪物。


 明らかに、これまでのモンスターとは格が違う。

 だが、竜司の表情は微動だにしない。

 彼の瞳には、絶対的な自信と信念が宿っていた。


「我は、陵安京りょうあんきょうの守護神!

 日の本を導く、正義の侍!

 さぁ、大蛇よ覚悟しろ!

 押して参る!」


 その瞬間、

 袴の裾がふわりと揺れ、一筋の剣線が走った。


:正義の侍モード突入!

:神木最強!神木最強!神木最強!

:神木、頼む、あの蛇をぶった斬ってくれ!

:竜司くん、カッコいいよ〜!

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 次の日の午前11時。

 全人類が異世界転移してから37日目。


 人々は相変わらず、上位ランカーの華々しい戦績について、スレに書き込みをしていた。


「昨日の神木、めっちゃカッコよかったな!

 マジで中ボス倒しやがった!

 あれは男でも惚れるわ!」


「ニーナちゃんはずっと可愛い」


「クラウス爺さんの魔法ヤバくね?

 あんなん、モンスターも涙目やん」


「お前らジャックの配信見た?

 あれはもうS級のスプラッター映画だわ。

 ゴブリンの血飛沫祭りまじパネェ。

 狂戦士ジャック、めっちゃオモロいぞ!」


 スレは連日、お祭り騒ぎである。


 そして、そんな熱狂に包まれた人々が今、もっとも注目している『偉業』。

 

 それは、『人類初の迷宮攻略』である。


 異世界転移から約1ヶ月が経過したものの、いまだ、迷宮を完全に攻略した者はいなかった。


 この偉業を達成すれば、まちがいなく人類史に名前を刻めるし、迷宮探索者として一気に知名度を上げることができる。


 そしてそれは、所属するコミュニティーの発展にも大きく寄与する『実利のある名声』だった。


 なぜなら、コミュニティーの発展には『金』と『人』の両方が必要不可欠だから。


 ボスクラスのモンスターを倒すと、神から莫大な額の追加報酬がもらえることがすでに知られており、かつ、知名度の高い迷宮探索者の所属するコミュニティーには、自然と人が集まった。


 上位ランカーたちは、我先にと迷宮攻略を急いだ。


「なぁ、誰が最初に迷宮クリアすると思う?」


「いやぁ、まだ分からんな」


「知り合いのドワーフが、簡単なダンジョンは4〜5階層くらいしかないって言ったし、☆1ダンジョンに潜ってるやつらはあと1ヶ月くらいで攻略するんじゃないか?」


「さすがにランキング1位のマークだろ」


「いや、あいつの潜ってるダンジョンは☆2だぞ。

 最近やっと第2階層に到達したばかり。

 ☆2ダンジョンは特殊なギミックが存在するから、そのせいで足踏みしてた」


 人々は熱心に議論を繰り広げる。


 そんななか、


――ピコン!

――ピコン!


 突然、

 全人類のスマホに、2通の新着通知が届いた。


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佐藤太一さんが、

☆2ダンジョンの中ボスを倒しました。

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==========

佐藤太一さんと他1名が、

☆2ダンジョンを攻略しました。

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 それは、佐藤太一という日本人が成し遂げた『中ボス討伐』と『☆2ダンジョン攻略』を知らせる通知だった。


「は?」


「ちょ、まって」


「え、どういうこと?」


「ダンジョンの攻略?

 つまり……どういうことだ?」


 スレの書き込みが一瞬止まったと思った次の瞬間、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


「マジかよ嘘でしょ!」


「おいおいおいおいオイィ!」


「☆2ダンジョン攻略キターーー!」


 嵐のように書き込みが急加速した。


 突然、突きつけられた『真実』。

 人類史に残る歴史的な『偉業』。

 人々の興味をすべて掻っ攫う衝撃の『ニュース』。


 それを成し遂げたのは、無名の日本人。

 佐藤太一という、謎の人物であった。


 その日、人類は思った。


「いや、誰だよ!」と。



※補足

 魔王は時間をかけて丁寧に『太一を作り直した』ので、太一が迷宮の外に出た時には転移から1ヶ月以上が経過していました。



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報告:もともとあった第7話『異世界について語るスレ2』は、削除(不採用)となりました。削除前に読んでくださった264名の読者の皆様、あのスレのことは忘れていただけますと幸いです。誠に申し訳ございません。



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