第3話 ナインシールズ

 

 ゴーン、ゴーーーン!!




「何の音?」

「バカ、緊急要請だよ」

「緊急要請って……」

「攻撃されてんだ」


 ある日の訓練中のことです。子羊の護衛隊の施設に爆音の鐘の音が鳴り響きました。

 訓練に参加する者の中にはこの音を初めて聞く隊員も多いようです。


 ゴゴゴ……。


 すぐに地面から低い音が鳴り響きました。そしてゆっくりと台座のようなものが出現します。この鐘が鳴ると準備される施設内の台座です。

 普段は隠されているものですが、このような大きな魔力が必要な有事の際には使用できるようになります。


 出現する台座の数は九つ。ちょうどフォルが担当している訓練場には六を意味するマークが描かれた台座が出てきました。


「おい、あそこから防御するのか……?」

「らしい。俺も初めて見る」


「その場から動かずに、自らを守れるよう魔力を溜めておいてください」


 台座の上に立ったフォルは、空に向かって大きく手を広げました。すると巨大な防御壁が現れました。真珠のような色合いをしており、台座を中心に広範囲を覆います。

 薄くは見えますが何重にも重なった超強力な魔法です。何より術者はナインシールズの一人。破る方が難しいでしょう。


ドォォオオオオン!!!


「うわぁ…!!」

「すっごい音……」


 しばらく空からの攻撃が魔法壁とぶつかり、ものすごい音を立てながら消えていきます。隊員達はそれをぼうっと眺めていました。

 子羊の護衛隊は敵の多い組織であり、長くいるこの拠点を知っている敵もいます。なのでこのように攻撃を仕掛けられることもあるのです。その度に力がある隊員がこうして守りを固めて事なきを得ています。

 ナインシールズに選ばれた9名のうち、施設内には4名の隊員がいますから、このように攻撃を跳ね除けるのは造作もないのです。


「……終わったみたいだ」

「すげぇ……かっけぇ!!」


 フォルの魔法防御を見た隊員はたちまち彼に憧れます。今も目の前で見た隊員達はフォルに釘付けです。最初は罪人に魔法を教わるなんてと嫌な顔をしていましたが、この組織は実力主義。圧倒的な力の前では憧れが勝ってしまいます。


「怪我をした人や体調不良者はいないですか?」

「…………」

「もしいたら必ず申し出てください。本部に直接でも構いません」


 フォルは彼なりに気を遣っているつもりでした。罪人である彼と話したい人がいないことなんて、この十年で痛いほどわかっています。自分に何かを教わることも、自分がナインシールズとして組織の上の立場にいることも、よく思わない者が多いことだってわかっていました。

 だから必ず自分以外の窓口をいつでも提示していました。それが自分にできる最善だと考えているからです。


 しかしその予想は半分正解で半分間違っていました。

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