23話 裏取引③

「取引だナルニア、拒否権はない」

「……、何がほしい?」


 ナルニアはゆっくりと聞く。彼は、この状況から逃れることができないことを深く理解していた。スライムは、そもそもが戦闘系の魔族ではなく、もともと魔王の隠密部隊として暗躍していた歴史がある。だからこそ、カインのような武闘派の剣士とは、すこぶる相性が悪いのだ。


「俺が欲しいのは、宦官の金の流れを追った『財務調査表』だ」

「なるほど、賄賂の流れを知りたい、と……」

「お前たち【黄金の天秤】は、投資家集団だ。そういった裏名簿も持っているだろう?」


 ナルニアは少し考え込む。


「僕に『顧客を売れ』と?」

「そうだ、じゃなければお前を殺す」


 カインの剣に力が込もる。ナルニアは、ふと笑みをこぼして、余裕気に答えた。


「僕の命とその情報を交換したいみたいだけど、少しばかり軽すぎるんじゃないかな?」

「そんなに、お前の命に価値があるとでも?」

「ん、違う違う? 勘違いしてるようだけど、逆だよ逆。かねは命よりも重いって、習わなかった?」


 ナルニアは、自身の体に杖を突きつける。カインの方に向き直ると、笑顔で言った。


「交渉するんなら、それ相応の対価を示さないと困るなぁ。もしできないのなら、僕が僕の手で、この身体を爆破するだけさ」


 ナルニアは大商人であるが故に、損得の機微を読むことにけていた。実際、彼はこの会話だけで、「リアムが宦官派を敵に回して追い詰められていること」、そして、「それをくつがえす材料を持っているのが今現在、自分しかいないこと」に瞬時に気づいたのだ。


 この状況において、カインはナルニアを殺すことはできない。ナルニアを殺せば、今回の策謀は成立しなくなるからだ。なら、するべきことは1つ。取引をより高レートなものにすること。ナルニアは、自身の命を賭けに出すことで、それを実現しようとしたのだ。


 カインは、したたかさに呆れながらも、次の手を打つことにした。こうなることを見越して、リアムに用意してもらったものがある。


「街をやる」

「ま、街!?」


 ナルニアは驚いて、声を上ずらせる。たしかに、【真理の灯台】にグラーノフの自治権を与えたのは知っていたが、だがしかし……、同盟関係のない組織にまで、街を与えるなどおかしな話じゃないか。


 なにか、裏があるのか? 


 ナルニアは警戒しながらも、話の続きが聞きたくて仕方がなかった。街の自治権がもたらす莫大な利益。それを彼の手中に収めることができれば、組織も拡大することができる。


「街はバルサロッサ。港町だ」

「その取引、乗らせていただこう」


 商業の中心地・バルバロッサ。ナルニアはカインに勢いよく握手を求め、笑顔になった。


(何があるかは知らないが、この地の利益を一時的に得ることさえできれば、僕の野望は……)


 昼下がり、二人の男たちは騙し騙しの裏取引を終えた。

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