将来性測定
五來 小真
将来性測定
「お子さん、順調に育ってますよ」
「そうですか、良かった。初めての子ですから、気になっちゃって……」
「お子さんの将来も、気になりますか?」
「このご時世ですし、気になりますね。……あのそれが?」
「まあ、サンプルを見せた方が早いか……」
医者はパソコンのマウスを操作する。
すると〇〇くんの才能という一覧表が出てきた。
才能:研究職8・工場労働者6・作家4……
興味:読書・動物……
体質:ビタミンDが欠乏しがち
「この子の場合、対人関係が苦手なようですね。おそらくそのために外に出ないから、日光が足りず、ビタミンDが不足になるようです」
「そこまでわかるんですか?」
「ええ、遺伝子レベルでの話ですけどね。それなりには。もっとも胎児の人権が出来るまでの間しかお見せできないんですけどね。―で、どうします?」
「見せて下さい」
母親は食い気味に、そう口にした。
「はいはい。——おっと」
医者はパソコンを叩き、母親の子のものが一度画面に映りかけた。
才能:パティシエ……
——が、すぐに消えた。
「ちょっと不具合があったようなので、もう一回出しますね」
改めて画面に一覧表が映る。
才能:サラリーマン7・パティシエ7・営業5……
興味:無機物・甘いもの……
体質:糖尿病になりやすい。
「これは……。なんか微妙なものが多いですね」
突出した才能は、ほとんどなかった。
パティシエと、サラリーマンの才能が他に比べて上位にあった。
どっちが良いだろうと考えていると、不意に医者が言った。
「……このパティシエは危ないですね」
「危ないとは?」
「興味適性が高く、その割に才能の数値が高くない。おまけにあなたの家系は糖尿病になりやすい」
「……えと、つまり?」
「あくまで現段階の予測です。興味からパティシエを目指し、ある程度才能があるから、反対されても突き進みます。ところがこれぐらいの才能はゴロゴロしてますから、貧乏暮らし待ったなし。でも真面目な性格ですから、諦めず頑張っちゃう。そうしている内に糖尿病ですよ」
言われた状況を想像し、首を振った。
「どうすれば……」
「いっそ消しちゃいますか?」
「―消す?」
「はい。下手にパティシエの才能があるからそうなってしまうんです。でもなければ……」
「そうはならないと。―そんなことできるんですか?」
「今の技術では、まだ才能を作ることは出来ません。が、消すのは簡単です」
母親は逡巡した。
自分の家系、夫の家系にパティシエなどいなかった。
アドバイスをしようとしても検討もつかない。
「じゃあ……」
母親の目には、わずかな狂気が浮かんでいた。
医者は一人、先程の客の一覧表を見ていた。
客に見せていた時と違い、パティシエが9を示していた。
もう一枚のモニタには、別の一覧表が出ていた。
才能:パティシエ7……
興味:才能のある範囲に限られる
体質:問題なし
「せめて7より上の才能を持って生まれてくれれば、ここまでの手間はなかった。運の悪さは妻ゆずりか……」
医者は先程の客のファイルを、いつもの週末と同じようにゴミ箱フォルダに放り込む。
『これら12個の項目を完全に削除しますか?』
マウスのカチリという音が室内に響いた。
<了>
将来性測定 五來 小真 @doug-bobson
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